虎の娘《３》 (ページ34)

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正直、仕事だからと言っても仲良くなれたと思っていた人に完璧な他人行儀で目も合わせずそう言われるのは少しだけ悲しくて傷付いた。

A 「ひかりちゃん、私のこと覚えてるよね？」

山田「もちろんです。初めて個人で担当させて頂いた打ち合わせだったのではっきりと覚えています」

A 「…やっぱり、タレントと仲良くなりすぎるのって良くないの？先輩さんになんか言われた？」

ビジネス口調で言い切って前回よりも手際よく資料を整理しているのを見て、勝手に寂しい気持ちになる。

山田「いえ…、上司には何も言われてませんが近すぎるのもどうかと思いまして」

A 「私堅いの苦手だから本番の時みたいに軽く話しかけて欲しいな…とか言ったらひかりちゃんやりにくい？」

控えめにそう言うとひかりちゃんは迷ったように目を泳がせて少し時間が経ってから頷いてくれた。

山田「…じゃあ、敬語やめます」

そう言うと年相応の無邪気な笑顔をした。

山田「えっと、まずはTravis Japanさんに加入が決まった時の心境から…お願いします」

普通に癖なのかまだ少し堅いけどさっきほど表情は堅くないから気にしないことにする。

A 「初めて一緒に活動をするってなった時は本気で無理だと思った。トラジャの売りがダンスなのは知ってたし私たちも圧倒されるぐらい本当にすごくて、絶対着いていけないって思ったし続けられるわけないって思ってた」

山田「Aちゃんもダンス上手かったけどね」

A 「あれはみんながイチから練習に付き合ってくれたからだよ。私入所するまでダンスなんかやったこと無かったから全然出来なくて、レッスンの度にイライラさせてたの自覚あったもん(笑)」

当時は私も子供だったから「こんなことで怒らないでよ」とか思って拗ねていたけど、あの時甘やかされなかったからこそ今の私があると思うし全部感謝している。

今の言葉も全部メモしているひかりちゃんを見て全て雑誌に載るんだと思ったから敢えてこれは口には出さない。

わざわざピリピリしていたことを公表する必要なんて無いし、感謝ならちゃんと自分で伝える。