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玄関を出てみると、まだレッスンを続けている生徒がいた。
こんなに寒いし暗いのに、ご苦労さまだ。

「……!」

…生徒のなかに彼女を見つけた。
紛れもなく、彼女だ。
僕が…探していた彼女。
ふと時間の流れが止まったような感覚に陥る。
ガラス玉のような目が、こちらを向いた。
遠くからでも、はっきり分かる。
僕が、愛していた…愛している彼女がそこにはいた。

「……A」

その名前を、口にする。
愛している名前。
頬を、なにかが伝っていった。
彼女はレッスンを続ける生徒になにか言い残すと、こちらへ走って向かってきた。
…彼女だ。
…僕の、A。

「…っ、宗くん…っ!」

彼女は目の前に、…いなかった。
…いる、彼女はいる…。
いるけど、彼女じゃない…。
…おかしい、さっきは…彼女は彼女だった。

「…A…?」
「はい」

返事をする彼女は、やっぱり彼女じゃない。
…なにが、違うんだ……。

「……っ」
「……!?え、しゅ、宗くん!?」

視界が歪んだ。
両目から溢れるその液体は、色素のない血液と同じものらしい。
……彼女が、教えてくれた。

「……A〜!タオルどこにある〜?」

遠くから2年の生徒が声をかける。

「…!…し、宗くん、ちょっと待っててね。…いまいく〜!おつかれさま!」

彼女は走っていく。
…走っていく彼女は、彼女だ。

「……」

気がついてしまったのだ。
彼女は、僕の前だと彼女じゃなくなってしまう。
その理由には、心当たりがないわけではない。
…なんの根拠もないわけではない。
また、視界が透明な血液のせいで滲んだ。
地面に落ち、それが地面に染みを作った。
…悪いことをしてしまった。
僕が、彼女を封じ込めてしまった。
……合わせる顔がない。

帰ろう。
僕は帰るため校門へ向かって歩き出す。
いつもより寒いのは、彼女がいないからだ。
そんなもの分かっていた。
彼女が彼女じゃなくなって…耐えられなくなって。
僕が別れを切り出したのだ。
今も彼女は、納得していないようで。
今みたいに僕を見かけると話しかけてくる。
…僕は、君には相応しくない。
制服の袖で目からこぼれ落ちそうになったものを受け止める。
…みっともない。

*→←斎宮宗



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ハム公(プロフ) - ほたるさん» 前作も読んでくださったんですね…!ありがとうございます!了解です。順番に消化していくので、遅くなる場合もありますが…必ず書きますので気を長くしてお待ちくださいm(_ _)m (2017年10月29日 23時) (レス) id: 9d4c60e419 (このIDを非表示/違反報告)
ほたる - はすみんが可愛すぎて死んだ・・前のやつの最初は笑いまくりました!!リクエストで私は君よりも〇〇さんが好き(憧れ的な意味、好きではない)と言ってみたをお願いします! (2017年10月29日 21時) (レス) id: 836cda0430 (このIDを非表示/違反報告)
ハム公(プロフ) - *神*威*さん» 了解です!ありがとうございます。 (2017年10月25日 0時) (レス) id: 9d4c60e419 (このIDを非表示/違反報告)
*神*威* - 誤字スミマセン!(笑)引き受けていただきありがとうございます!転校するでお願いします。 (2017年10月23日 9時) (レス) id: 662403215f (このIDを非表示/違反報告)
ハム公(プロフ) - よつぎさん» わーありがとうございます!転校する、ということですかね…?EveとAdam頑張ります…笑 (2017年10月22日 17時) (レス) id: 9d4c60e419 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鈴木 | 作成日時:2017年10月14日 23時

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