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そばに長居すると自分の理性が危うくなるほどの香り。
───食したあかつきには、一体どうなってしまうんだろう。
こんなに美味しそうなケーキが、捕食されずこの年まで生きていることが不思議でならなかった。
だからグルさんが居る飲み会には参加しないことを誓っていた。
アルコールで理性がきかなくなることを避けるために。
｢どうだ、今日飲みに行かないか？｣
｢あー、すみません……今日はちょっと仕事が残っているので…｣
───こうして、ありがたい誘いも断らざるをえないのだ。
｢それじゃあ一緒に帰らないか？｣
どきり。
食い下がらないグルさんを見たのは初めてだった。
もしや、何か外部から重大な案件を依頼されたのであろうか。
くだらない期待はとっとと棄却して，私はその提案を了承した。
私の仕事の能率が悪く、他の社員がとうに帰ってしまった頃に、ようやくもって仕事が終了した。
途中からグルさんに手伝ってもらったおかげか、普段より早く終わらせることが出来た。
本当にすてきで頼もしい上司を持ったものだと感慨に耽りながら，ぐっと腕を上に伸ばして力を込めると、肩が疲労でパキパキと鳴った。
｢お疲れ様。行くぞ｣
そう言い放ったグルさんのあとに私はひょこひょこと着いて行き、会社をあとにした。
重大な話かと思っていたが、道中取り留めもない話が続いた。
最寄り駅が同じなもので、駅を降り二人して歩いていると、ポツポツと予報外れの雨が降り始めた。
かと思うと、雨の勢いは一気に増し、まるで滝のように私たちに降り注いだ。
｢A、走るぞ！｣
その声掛けと共に、私たちは近くにあったグルさんの家にとりあえず駆け込んだ。
立派なマンションだった。
広くて、ワインレッドとモノクロで統一されたグルさんの部屋は、私の子供っぽくて狭い部屋とは違って、あまりに上品で息を飲んだ。
タオルや部屋着などをお借りして、呑気にリラックスしていると、グルさんは少量のワインを勧めてきた。
｢この間偶然手に入ったかなり珍しい上等のワインなんだが、飲まないか？｣
家にまで着いてきてしまったし、少量だけなら……と思い、私はそれを一気に飲み干した。
当然味は分からない。だけどきっと美味しいもののはずで……
「このワイン、美味しいですね！」
そう、いつものように言った。
するとグルさんの顔はみるみる曇り、無言になってしまった。
「…グルさん？」
「飲んでみて、なんか違和感とか感じんかったか？」
「え……｣
グルさんの素の方言がふと漏れる。
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作者名：AKIRA | 作成日時：2019年1月29日 1時
