十二匹目 ページ12
館の中はしんとしていて、響くのは私の慌ただしい足音だけ。
時々響く烏の鳴き声に怯えながら、ひたすら走り回った。
でも、誰もいない。
誰もいないのだ。
鍵がかかっている部屋が殆どで、入れたとしても、床は木屑に塗れ、割れた窓硝子の破片が散らばっているだけだった。
『どうしよ…やっぱり、森で迷ってるんじゃ…』
館の外に出る為に、階段を下りた。
無我夢中で下りていたのが幸か不幸か、あるとは思っていなかった地下に辿り着いた。
カビが生え、悪臭がした。
ぴちゃりと音を立てるのは、足元の水溜りで。
何で地下に水なんか溜まっているのかは分からないが、取り敢えず置いておくことにする。
『…まるで、牢屋みたい』
鉄格子一つで通路と区切られた、地下牢のようなものが並んでいた。
所々にある骸骨は酷く不気味で、恐怖を煽る。
早歩きで通り過ぎた通路の先には、扉があった。
大きくて、錆びてしまって意味を成していないが、唯一南京錠がかかっている。
『…すぅ、はぁ…』
大袈裟に深呼吸して、扉を開いた。
暗くて、部屋の全貌は見えないが、床に散らばった写真だけは見つけることができた。
それを拾い上げようとしゃがむと、見えないほどの速さで腕を掴まれた。
「…貴女、誰」
『っ…』
冷たい床に打ち付けられ、離した扉は音を立てて閉まった為、暗闇が訪れる。
何も見えない。
声的に、目の前のこの人は女性だと思われるが、顔も身体も見えないのだから、まだ判断はできない。
…でも、私は、この人を知っている。
「あいつの仲間？残念だったわね、女一人でのこのこと、あいつには確かに歯は立たないけど、普通の男くらいなら余裕で押さえつけられるくらいには鍛えてんの、こんな牢獄で、本当に私が大人しくあの子を待つとでも思ってるのかしら」
『…』
「何か言ったらどう？あいつは今、必死に森でまた生贄を探し回ってるんでしょうから、助けに来てはくれない、まあ、元々助けになんてこないでしょうね、あいつは、Aにしか興味ないんだから」
『…！』
「っ、助けが来ないとわかったら怖くなった？無駄な抵抗、っ、しないの！あの子は渡さない、二度と、あんな奴の手中なんかには！」
強気なところは何も変わっていない。
確かに、力も声も、あの時とは全くもって異なるけれど。
こんなにも、心が叫んでる。
あの子の名を。
『置いていったりなんかして、ごめんね、っ、葵ちゃん…！』
貴女の、名を。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 242人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
うっちゃん - 私もこういうの好きです。~^〜^~ (2020年9月24日 16時) (
レス) id: 000505beae (このIDを非表示/違反報告)
星舞__(*´ `*) - これ読んでる時号泣しました……こういう作品私めっちゃ好きなんですよー！更新頑張ってください！ (2020年9月23日 16時) (レス) id: 5f2a936d4a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：五千時 x他2人 | 作成日時：2020年8月14日 10時
