兎の盲目 ページ2
泣いたのは、何年ぶりだろう。
いや、つい昨日のことか。
連れて行かれたAを、その手を、どうして繋いでいてあげられなかったのか。
後悔してもしきれない。
一人で今も耐えているのか、そんな狂った主人達に、義弟達に、囚われて。
「…Aは、僕を許してくれるかな」
少し前に、夢を見た。
花畑の上、幼い僕とAが、手を繋いで、高い壁を見上げていた。
僕は壁の外には綺麗な世界があると言った。
それを信じたが故に、Aは、自分が汚れているから、この世界は恐怖に包まれて見えると言った。
…ごめん、A、ごめんね。
僕のせいだ、あんな無責任なことを言って、本当に、ごめん。
「…本当は、あの夜のパーティーは、Aと会う為の口実だったんだ、今更だけど、戻ってきて欲しいって言おうと思った、だけど、Aは、逃げるように、ただ硝子の靴だけを残して消えた」
「今からでも遅くはないんです、だから、一緒に来てください、ぴくとさん」
自分の名前が嫌いだった。
あんな毒親につけられた名前なんて。
それを汲み取ってか、Aも、僕のことをお兄様としか呼ばなかった。
一度も、僕の名前を呼んでくれたことはなかった。
僕を呼んでも、名前だけは、絶対に呼ばなかった。
でも、それは一種の家族の証でもあった。
親は関係なく、僕とAだけが、ただ兄妹という、家族という関係であることを示す証明のような、抵抗だった。
「…その名前を、何処で」
「調べればすぐに分かりました、貴方は一国の王ですから、それに、A様が教えてくださったんです」
「Aが？」
「はい、兄の名前を呼ぶということは、別れを告げることと等しいから、過去で一度も、その名前を本人の前で口にしたことはない、と」
「…」
Aもそうだった。
あんな親から名付けられた名前なんて嫌なはずだ。
…いや、一概にそうも言えないか。
Aは、僕と違って最初は必要とすらされていなかった。
二人とも、結局は家柄のための道具としか見られていないのは同じでも、Aは、唯一親から与えられた名前というものを、嫌ってはいた、でも、大事にしていたようにも思う。
「ぴくと、って言います、よろしく」
「アリスとお呼びください、ぴくとさん」
その名を呼ぶのが、僕だけだったから、嫌いな名前を愛すことができたと思うのは、あまりにも図々しいよね。
ねえ、A。
まだ、僕を兎と呼んでくれるかな。
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五千時(プロフ) - リンネくんさん» コメントありがとうございます！そしてご愛読ありがとうございました！次回作にご期待ください！ (2020年8月12日 21時) (
レス) id: 76bb208c06 (このIDを非表示/違反報告)
五千時(プロフ) - 馬鹿の者さん» コメントありがとうございます！いやあ、いつも嬉しい言葉をかけてくださって…結婚しちゃいますか！((殴次回作もよろしくお願いします〜！ (2020年8月12日 21時) (レス) id: 76bb208c06 (このIDを非表示/違反報告)
リンネくん - 完結おめでとうございます！！！なんか凄かったです(語彙力)次回作楽しみにしてます！！！ (2020年8月12日 20時) (レス) id: ff52703082 (このIDを非表示/違反報告)
馬鹿の者 - 小説の中に入りたい()毎度毎度、よく話が思い浮かびますね？凄いですよね？神ですね？結婚します？((殴 (2020年8月10日 11時) (レス) id: 5afbb2e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
五千時(プロフ) - 糸さん» コメントありがとうございます！更新頻度遅くて申し訳ないです…そろそろ終盤なので最後までご愛読よろしくお願いします！ (2020年8月8日 19時) (レス) id: 76bb208c06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：五千時 x他1人 | 作成日時：2020年8月1日 0時
