コトノハ（∞）

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「ーー何で、あたしがあの店にいるって分かったの？」


部屋に入るとすぐに解かれてしまった手が寂しくて、

それからまた急に不安が戻ってきて、

裕の背中に問い掛けた。



「何ではこっちの台詞や！

帰って来たら、買い物の荷物は置きっぱなしやのに、お前はおれへんし、電話しても出ぇへんしっ

何かあったんか思うやろっ！」


珍しく声を荒げる裕に驚いて、だけどその顔を見たら、本当に心配してくれていたんだと分かって、


「ーーごめんなさい…」


素直に言葉が出てきた。


それから、カバンに入れたままだったケータイを取り出せば、裕からの着信履歴が並んでいて、

更に申し訳なさが込み上げるけれど、


「大倉から連絡もらって慌てて迎えに行ったら、二人で仲良く俺の悪口で盛り上がってるって何やねんっ」


口を尖らせて不機嫌そうになり言われると、こっちだって言いたい事はあるわけで。


「っ、そもそも、何であたしがあそこにいたと思っるのよっ」


あたしがぶつけた怒りまかせの言葉に、動揺するでも反省するでもなく、


「だから何でやねんって聞いてるやろっ」


と普通にキレてるこの人は、もしかして天然なのか？


それとも開き直り？



そっちがその態度なら、こっちはストレートにぶつけるしかないじゃないか。



「身に覚えがないとは言わせないから。



ーーその口紅、一体誰のものですか？」


相変わらず堂々とテーブルの上に直立する口紅を指差して、静かにそう尋ねると、


「はぁ？口紅？何の話……あ、、」


訝しげにあたしの指差す方向を振り向いて、そして固まった。


それはもう分かりやすく、固まった。



まさか、あんなに分かりやすく置いてあるものが目に入っていなかったわけ？

それとも、違和感を感じないほど見慣れ過ぎて、風景の一部と化してた？

どっちにしてもあり得ないんですけど。



呆れるあたしを尻目に、しばらくの沈黙の後、観念したように口を開いた裕は、

とんでもない台詞をはいた。




「ーーそれは、俺の、やねん…」






ーーはぁ…？！


って、なるよね、そりゃあ。

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