▼ ページ30
.
「おっと、倒れる前にもうひと仕事だ」
まだあんのかよと言いたげに顔を上げて太宰を見る中原の目には、怨みの念が宿っている。
睨み付けるように見上げる中原を表情変えず見つめる太宰は、和やかな笑みを向けた。
「鎖を壊したのは君だ。私がこのまま逃げたら、君が逃亡幇助の疑いをかけられるよ？君が云うことを聞くなら、探偵社の誰かが助けに来た風に偽装してもいい」
「……それを、信じろってか」
ゆっくりと立ち上がった中原が、眉間に皺を寄せて鋭く目を細める。
「私はこういう取引では嘘をつかない。知ってると思うけど」
「手前っ…」
余裕ありげな笑みを浮かべながら言った太宰に、怒りが最高点に達したのか中原は目を吊り上がらせた。
頬はヒクヒクと引き吊っており、尋常じゃない怒りの念が見て取れる。
その反動か、中原は脱力したようにしゃがみ込むと深い溜め息を吐いた。その溜め息からは諦めの色が見える。
静かに顔を上げて不満げに眉を寄せながら、中原は言った。
「……望みは何だよ」
「さっき云ったよ」
面倒臭げに首に手を当てながら言う太宰を中原はじっと見つめる。
すると、床に投げ捨てていた黒い外套を掴み羽織るなり背を向けて口を開いた。
「…あの話なら芥川が仕切ってた。奴は二階の通信保管所に記録を残してる筈だ」
「あ、そう。予想はついてたけどね」
「てッ…」
太宰の軽快な態度に思わず怒鳴りたくなる気持ちを無理矢理押し込め、中原は代わりに盛大な舌打ちをする。
そのまままた背を向けて歩き始めた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 282人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
水瀬月鏡(プロフ) - 黒揚羽さん» コメントありがとうございます！ハマって頂けるなんて凄く嬉しいです！これからも頑張らせて頂きますね！ (2019年8月12日 10時) (
レス) id: 6aa236e388 (このIDを非表示/違反報告)
黒揚羽(プロフ) - はじめまして！この作品を読み始めてどっぷりハマりました！！これからも頑張ってください！応援してます！ (2019年8月12日 9時) (レス) id: 681227896a (このIDを非表示/違反報告)
水瀬月鏡(プロフ) - 神様仏さん» コメントありがとうございます！そう言って貰えて凄く嬉しいです！その質問には質問コーナーで答えさせて頂きますね！ (2019年8月11日 20時) (レス) id: 6aa236e388 (このIDを非表示/違反報告)
神様仏 - そこで質問なのですが、乱歩さんは夢主ちゃんの事が好きなんでしょうか？それともまだ気になっているみたいな感じでしょうか？乱歩さん推しの私としては気になっていまして… (2019年8月11日 20時) (レス) id: c244c7ed18 (このIDを非表示/違反報告)
神様仏 - 初めまして！水瀬さんの作品の愛読者です！水瀬さんの作品は妙に引き込まれるようなものを感じます。特に私はこの作品が本当に好きで、文章構成や内容もとても魅力的だと思います。これからも頑張って欲しいです！ (2019年8月11日 20時) (レス) id: c244c7ed18 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：水瀬月鏡 x他1人 | 作成日時：2019年7月14日 10時
