第三十一話 美しい情景 ページ34
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「うわあ……!」
思わず洩れた感嘆な声は、空気に溶け込んで消えていった。
生温い風に靡く髪を抑えながら、私は目の前の景色にただ見とれていた。
今日は待ちに待った治くんの誕生日。いつも通り朝起こしに行くと、もう起きて準備をしていた治くんが満面の笑みで私の腕を引っ張ってそれに流されるまま着いてきた。
そこで着いた場所が、一面花畑でとても景色の良い丘だった。
赤、青、黄、紫、白など、様々な色の花が揃っていて思わず見とれてしまう程に綺麗な光景。それに私は目を輝かせて辺りを見回した。
「スゴく綺麗な所だね、治くん!」
「Aが喜んでくれて良かったよ」
まるでとても愛しいものを見るかのように目を細めて優しく微笑む治くん。
そこで私はハッと我に返った。
あれ?今日って治くんの誕生日だよね?
何か立場がスゴい逆な気がするんだけど。
これでは私の誕生日みたいになっているじゃないか。とはいえ、せっかく治くんが連れてきてくれたので、無下にもできない。
不思議と心の底から沸き上がる高揚感に私は逆らう事はせず、そのまま治くんに向き直る。そしてそのまま自分の思うままに治くんをつき倒した。
「…え、」
私の突然の行動に驚く治くんを他所に、二人して花畑に倒れ込んだ。反動で色とりどりの花弁が宙を舞う。
すぐに起き上がった私は、未だに驚きで目を丸くする治くんに満面の笑みで言った。
「ふふっ、誕生日おめでとう、治くん!」
私のその言葉に、治くんは微かに目を丸くすると穏やかな微笑みを浮かべる。
するとそのまま私の腕を引っ張って抱き締める。私は治くんを受け止めるように抱き締め返した。
正直ここで雰囲気を壊すようだが、端から見れば何かまるで少女漫画のようにロマンチックじゃないだろうか。
だって花畑で抱き締め合う男女って、何か美しい。まあその女は私な訳だけどさ、まさか最推しとこんな事をする事になるとは、前世で生きていた頃の私は夢にも思わないんだろうな。
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黒猫もふお - 神作品を発見してしまった……これが現実だったらいいのに……… (8月3日 11時) (レス) @page45 id: 9c4f5ea239 (このIDを非表示/違反報告)
梅林 - 物語も面白いし、何より、え、もう太宰さんが可愛すぎてこっちが可笑しくなりそうでした。本当にもう泣きそうなくらい可愛かったです!!これが現実では無いと思うとめっちゃ悔しくなります(;o;) (2020年2月27日 2時) (レス) id: 837f5e2707 (このIDを非表示/違反報告)
水瀬月鏡(プロフ) - 真菜さん» コメントありがとうございます!そんな風に思って下さってるなんて…!もう嬉し過ぎて涙が出ます!!(泣)本当に有難うございます!!これからも頑張らせて頂きます!! (2019年7月14日 16時) (レス) id: 6aa236e388 (このIDを非表示/違反報告)
真菜(プロフ) - とても面白くて、大袈裟に感じるかもしれませんが、これを楽しみに毎日過ごしてます!リメイク版も楽しみにしているので、自分のペースで頑張ってください!!! (2019年7月14日 16時) (レス) id: ef2b815640 (このIDを非表示/違反報告)
水瀬月鏡(プロフ) - 東雲 祀さん» コメントありがとうございます!太宰さん可愛いですよね(笑)。楽しみにして下さって本当に有難うございます!!これからも頑張らせて頂きますね! (2019年6月29日 18時) (レス) id: 6aa236e388 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:水瀬月鏡 x他1人 | 作成日時:2019年5月21日 14時