季節、確かに移ろって。 ページ1
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No side
ピンポーンと、高塚家に軽快なチャイムが鳴り響いた。
八月の昼下がり。里奈は母親に呼ばれて玄関に向かう。
扉を開けると、蒸し暑い空気と油蝉の合唱が飛び込むように入ってきて、里奈の額に汗が滲んだ。
「グッドモーニング、リナ！」
里奈は眩しそうに薄く目を開いて「おはよう」と、やってきた客人に微笑んだ。
「アイン、アメリカは楽しかった？」
「おう！昨日帰ってきたんだ。これお土産！」
時差ボケなど知らずに元気なアインは、夏休みが始まる前と比べて随分日に焼けていた。ビーチでサングラスでもしていたのか目元にメガネ状の焼け残りがあって、里奈はくすくすと笑う。
「いつもありがとう」
「いいんだって！それより、これから葵のお見舞いに行こうと思ってるんだけど、里奈も一緒に行かないか？」
「えっ」と里奈は目を丸くしてアインを見つめた。
「桐ヶ谷くん、入院してたの…？」
「は！？聞いてねーの！？もう一週間くらい経つぞ！」
「知らなかった…」と里奈は口元を抑えて深刻そうに眉を下げる。畳み掛けるように「なら行こうぜ！今すぐ！」とアインが里奈の腕を引く。
里奈は「あ…」と玄関から一歩足を出したところで思いとどまった。
「私は行かない…かな。」
「ええ、なんでだよ？」と不思議そうに振り返るアイン。
「桐ヶ谷くん…私が行っても、迷惑になるだけだと思うから…」
うつむき加減に口篭り、目を伏せる里奈になんて言えばいいのか分からない。アインは「何言ってんだよ」と呟いた。
「お前はみんなと同じ大事な仲間だよ！それは、葵にとっても同じだと思うけど……」
「ありがとう、アイン。」
里奈は少し頭をかたむけて、短い髪を揺らす。
そして少し迷った挙句、ぽつんと一言「ごめんね」と謝った。
アインは里奈から手を離した。
しばらく唸りながらその場に留まっていたが、頭を掻きむしりながら「うーん、分かったよ…」と頷く。
「じゃあ、今日は俺も行かね！」
軽快な返事に里奈は目を見開いて顔を上げる。
アインは腰に手を当て、ニシシと頼もしく笑っていた。
「恵林が葵のことで超絶ブルーなんだ。元気だして欲しいし、久しぶりに三人でどっか遊びに行かない？」
…とても暖かい、それでいて太陽のように眩しい。
心のどこかで待っていた、懐かしい光がきらきらと宙を舞っている。
「…うん！」
まるで遠い昔に戻ったように、里奈はとても嬉しそうにはにかんだ。
里奈の世界に、ようやく夏がやってきた。
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そちゃ(プロフ) - おい氏橋！ついにやりやがったな...と、友達目線で読んでました。今回のお話はキャラのらしさ全開で読んでて楽しかったです。アインくん不穏でしたが彼ならきっと乗り越えられると願ってます....続き楽しみにしてます。 (2023年3月22日 21時) (
レス) @page46 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2023年3月15日 23時
