No.187 ページ17
.
なんだ、まだ合奏すら始まっていないじゃないか。
と、中村はじっとり目を細めた。
恵林も他の楽器も、皆パート練習のため音楽室にはいない。
トロンボーンなどの大きな金管しか聞こえない中、中村兄弟はピアノの前で雑談をしていた。
雑談と言ってもほとんど修也が一方的につまらない話を続けるだけで、中村はそれを右から左へ聞き流して時間を潰していた。
しばらくして部員がぞろぞろと音楽室に戻ってきた。
その中には美江の姿も、そして恵林もいる。
皆が席につき、チューニングを終えた頃に修也は指揮棒を持って一番前に立った。
中村は楽譜をセットした。
「
「簡単に言うと、ふたつの音しか鳴っていないはずなのに、綺麗な和音が聴こえてくる〜ってやつなんだけどね。その第三の音を倍音って言うんだ。」
修也はそう言って「B管さん、最初の音出して」と指揮棒を振った。
音楽室にクラリネットやサックスの太く芯のある音が響く。続けて「C管、Es管、ソの音出して〜」と声を張る修也。
室内にふたつの音が木霊した。
恵林はフルートに精一杯息を吹き込みながら目の前の修也を見上げる。
修也はしばらく薄く笑いながら一つ一つの楽器の音を聴き比べているようだった。
「トランペット、低すぎ!」と修也が叫んだ。
言われた部員達は背筋をぴんと伸ばしてチューニングを確かめる。
しばらくして修也の指揮棒がゆっくり降ろされた。
「今吹いてなかった人、どうだった?ドとソの真ん中の音、聞こえた?」
ざわざわと話し声がする。
聞こえたと頷くものや首を傾げるものもいた。
「倍音が聞こえると、ちゃんとみんなのチューニングが合ってるってことだからね。」と修也は結論付けて、コンクールのスコアを開く。
「はいじゃあ合奏始めま〜す」
修也のその一言に美江が立ち上がる。
「よろしくお願いします!」
美江の挨拶に部員は全員頭を下げた。
修也は頷きながらメトロノームをセットすると、みんなに拍の速さを聞かせた。
指揮棒が上がる。
緊張感がピシリと漂った。
そして、部員が一斉に息を吸い込んだ。
.
15人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2022年4月14日 17時