話伍 ページ9
…
色鮮やかな花畑の中心ではしゃぐ者たちを見守りつつ、薬研と前田は大木の根元に腰を下ろし辺りの警戒を行っていた。
「なんだ、混ざらなくていいのか」
「はい。僕は隊長として皆を見守る責務がありますから」
前田藤四郎は、初期刀に次いで初めて喚ばれた刀だ。
最初期から主を支え、本丸を担ってきた故に他の本丸の前田に比べ責任感が強い個体に思える。
だからこそ、こうして羽を伸ばせる時に伸ばしてほしかったのだが。
「…いち兄みたいに上手くはいかねぇもんだな」
「薬研？何か言いましたか」
「いや、でかい木だなと言っただけだ」
薬研は木の幹を枕に寝転がった。
生い茂る葉の隙間からもれる鋭い陽光が目を突き刺すように眩しい。
試しに前田と手を繋ぎ、目いっぱい伸ばしてみたが到底届くわけもない。
「これでは藤四郎の兄弟全員を連れてきても手が回るか分かりませんね」
「立派なもんだな...お、なんだこれ」
最初は気づかなかったが、元いた場所の丁度反対側の根元に、何やら木の枠組みが埋もれている。
その苔むした枠組みの辺りには赤い丸太や細工のされた石燈籠が転がっていて、ここは社だったのかと悟った。
人間の文明は、この木の成長を予測できなかったのだ。
薬研と前田は興味本位で中を覗き込んだ。
視認できたのは光の届く手前側だけであったが、腐ったような板張りの床に見覚えのある装束の端が落ちているのが分かった。
二人は顔を見合せた。
あの浅黒く瘴気を纏う布切れ、それは見紛う事なく時間遡行軍の纏う装束である。
両者の纏う空気が一変し、前田が鋭く声をあげる。
「…薬研」
「わかってる」
腰から己の本体を引き抜き、扉の左右にそれぞれがついた。
社の中から表立った気配はしないが、隠蔽力が高い敵短刀が潜んでいる可能性もある。
二人は目配せを交わし一呼吸のうちに中へと乗り込んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 290人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
moeka(プロフ) - とても続きが気になる作品でした。続きが更新されるのを楽しみに待ってます。 (12月11日 10時) (
レス) id: e6820645c8 (このIDを非表示/違反報告)
りす(プロフ) - すごい好みな作品です！主様のペースで頑張ってください！応援しています！ (8月28日 15時) (レス) @page13 id: 6cf6d64f42 (このIDを非表示/違反報告)
翠(プロフ) - ゆるりんちょ｡さん» コメントありがとうございます!ゆるゆる更新ですが楽しんで読んで頂けるように頑張ります! (7月8日 1時) (レス) id: 349b08cf6c (このIDを非表示/違反報告)
ゆるりんちょ｡(プロフ) - 初めまして！とても続きが気になる素敵な作品でした！また更新される日を楽しみにしています！！ (7月7日 3時) (レス) id: 0f7a58df20 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：翠 | 作成日時：2023年2月13日 21時
