話弐 ページ6
その時だった。
見計らったかのように、四方を覆う障子の正面が無遠慮に開け放たれた。
埃が積もる板張りの床に久々に陽の薄明かりが差し込む。
視線を向ければ、太陽を背にした男が社の外に立っていた。
その男は黒の面布と甲冑を纏った黒子のような出で立ちである。
奇妙なことに、その視線の先は本体の刀ではなく、霊体である私自身に注がれているようだった。
「突然の訪問をご容赦ください。其方は刀剣に宿る付喪様とお見受け致します。」
人間は滑るように目の前に跪くと、男とも女ともつかぬ変声された声を社に響かせた。
『…私が見えるのか。』
当然の疑問が口から零れた。
付喪の同胞以外、己を視認出来る者は居ないと記憶していた。己を手にした歴代の主も誰ひとりとして姿を見ることは叶わなかった筈だ。
「無論見えますとも、縁切一文字様。
私は遠き未来からの使者…貴方様は遠くない未来で、この社と共に朽ち果てまする」
『…そうだろうな』
人間は縁切の様子を伺っている様子だったが、彼女の
の表情は依然としている。
前から覚悟のついていた事を今更指摘されようと、彼女の不興を買うことは無かったのだ。
…彼女自身、そうと伝える気は無いが。
然しこうも長い年月、孤独で退屈な環境に慣らされきった心では、己の幕引きすら他人事のように感じてしまう。
それが気に食わなかったのか黒子の人間はかぶりを振って、焦ったように足を踏み鳴らした。
「結論から先に申し上げます。
貴方様には我々時間遡行軍の麾下に加わって頂きたい。我らは歴史を在るべき姿に戻す!!
過去へ飛び貴方様を此処へ追いやった人間を始末すれば、歴史は変わるのだ!!」
先の冷静さをかなぐり捨て、鼻息荒く息巻いて熱弁し始める人間。
時間遡行などと、人智はまさに神の領域に達したらしい。
『生憎だが、私が此処で折れようとも嘆かわしきは己の力不足のみと心得ている。…それとひとつ。』
縁切一文字は徐に男を指差した。
男はたじろいだが、その整えられた指先は真っ直ぐに男の手に向けられている。
『お前、怨恨や憤怒の縁に酷く取り憑かれているぞ。
「なにッ…！？」
『遠からず報いを受けるだろう。
歴史とは、縁の糸が無限に繋がっていくように人間の懸命な営みが折り重なった尊物だ。それを踏みにじった己を恨むと良い』
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moeka(プロフ) - とても続きが気になる作品でした。続きが更新されるのを楽しみに待ってます。 (12月11日 10時) (
レス) id: e6820645c8 (このIDを非表示/違反報告)
りす(プロフ) - すごい好みな作品です！主様のペースで頑張ってください！応援しています！ (8月28日 15時) (レス) @page13 id: 6cf6d64f42 (このIDを非表示/違反報告)
翠(プロフ) - ゆるりんちょ｡さん» コメントありがとうございます!ゆるゆる更新ですが楽しんで読んで頂けるように頑張ります! (7月8日 1時) (レス) id: 349b08cf6c (このIDを非表示/違反報告)
ゆるりんちょ｡(プロフ) - 初めまして！とても続きが気になる素敵な作品でした！また更新される日を楽しみにしています！！ (7月7日 3時) (レス) id: 0f7a58df20 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：翠 | 作成日時：2023年2月13日 21時
