弐 夢じゃなかった ページ2
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一旦冷静になろう。深呼吸。吸って、吐い――
「あれ、A先輩?」
いきなり名前を呼ばれて、吸ったはずの空気がすごい勢いで逆流してくる。
「ゲフッッッ!! び、びっく"り"し"た"……」
「だ、大丈夫ですか!?」
「ん"……いや、大丈夫、ありがとう。乱太郎くん、きり丸くんにしんべヱくんも……こんな朝早くからランニング?」
「そうでーす!!」
「ぼくもうお腹空いちゃったぁ、早く帰ろ〜?」
「しんべヱ、あと少しだから頑張って」
三人は朝から元気だなぁ。
「そういえばしんべヱくん、この前は帰り大丈夫だった?」
丁度いい機会だったので、空腹で動けなさそうなしんべヱくんに、あれから少し気になっていたことを直接聞いた。
「この前……あ! 和菓子屋さんに行ったときの」
「そうそう。私と離れて、確か……立花先輩と合流して帰ったんだよね?」
「はい!僕と、喜三太と、立花先輩の三人で帰りました! でも途中で立花先輩が敵に追われちゃって、何故か先輩が『お前達といるといつもこうだ〜』とかって僕たちに怒って、焙烙火矢をいっぱい投げながら帰りました!」
「そ、それは全然無事じゃなくない?」
「でも立花先輩は、なんだかんだ優しい先輩ですよ!! 帰りにまたお団子も買ってくれたし……ちょーっと抜けてるところがありますけどね」
立花先輩、冷静沈着で完璧な人だと思ってたけれど、そんな一面もあったんだ……。
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しかしまぁ、くノ一教室で私の噂が何一つ流れていなかったのが幸いだ。
今日の話題といえば、先輩がかっこいい、とか、実習先で利吉さんを見かけた、とか。
「――えーっ、それでそれで!?」
「声をかける間もなく消えちゃった。フリーの忍者はお忙しいもの――」
「残念……そういえば、タソガレドキ城の雑渡昆奈門のことだけど」
「最近よく見るよね」
「タソガレドキってそんなに暇そうじゃないのに……」
「忙しい合間を縫って、なんでわざわざ忍術学園へ来るのかしら?」
「医務室に寄ってはすぐに帰っていくよね。善法寺伊作先輩に包帯を変えて貰ってるとかって、聞いたわ」
「本当に!? なんでわざわざうちで――」
マズい。
もし雑渡さんが医務室に行っているという話題になれば、医務室で手伝いをしている私へ話題の矛先が向けられるかもしれない。
(くノ一の勘は恐ろしいからなあ……)
私は厠へ行くふりをして、そっと話の輪から離れた。
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黒糖さまでーす - おぉー✨スリルとサスペンスな展開だー✨(伏木蔵ボイス) (2023年3月11日 23時) (レス) @page5 id: b07dd8e215 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりりん(プロフ) - 続きが気になります! (2020年6月1日 1時) (レス) id: 9679665185 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:よしのや | 作成日時:2020年3月10日 19時