弐拾玖 善意の塊 ページ39
・
善法寺伊作先輩はどこまでも御人好し――いや、保健委員の精神が強いと言ったほうがいいだろうか。
「大丈夫ですかっ、すぐに手当を！」
そう言って、伊作先輩はほぼ無意識のように置きっぱなしだった包帯の籠を持ち上げた。
手伝おうにも手伝えないし、当たり前だけど伊作先輩を残して帰るわけにもいかない。
「伊作先輩、私も手伝いたいのは山々なのですが、包帯を巻くのがとてつもなく下手でして……」
「手伝ってくれるのかい!? 包帯の巻き方は今度教えてあげよう。じゃあこの薬草を仕分けて、これを僕が言った通り患部に塗ってもらえるかな」
「はいっ！」
完全に善意でやっていることだけど、薬草の勉強にもなる。
これでさえ上手くできないんじゃないかと少し不安だったが、私は意外にも単純作業が向いていたようで、気がつくとすっかり日が沈みそうになっていたほど集中していた。
そういえばずっと騒々しかった爆発音や人の声も、昼と比べると随分静かになった気がした。
私達が手当てをしている最中、雑渡さんは遠くの様子を眺めた後「すぐ戻る」と言って森の奥へ走っていくことがあった。まあ、忍者だもんね、仕事も忙しいんだろう――。
改めてあの人、戦中の城の人間――しかも忍者隊の組頭なんだよね。基本、私達につきっきりだけど、大丈夫なのかな……。
最後の包帯が、夕陽に照らされて橙色に染まる。
薄暗くて、雑兵の人は特に顔が判別しづらくなってきた。
「よし、これで全員終わり。それじゃあ僕らも帰ろうか」
「はい！」
「本当にありがとうございました!! あの、これはほんのお礼ですが――」
「いえいえ、それには及びません！ 薬草や薬品だって全てそちらのものを使いましたし……」
「いえ、しかしっ」
そんな押し問答を側で聞いていると、ふと雑渡さんが側に居ないことに気づいた。
「雑渡さん？」
すぐ戻る、と言ったまま戻ってきてないんだなあ、きっと。
待ってたほうが良いのかなぁ、うーん……。
あ、なんだか不破雷蔵っぽかった、今の私。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 143人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
廬。(プロフ) - 最高です……どうか続編頑張ってください……!! (2019年11月1日 13時) (
レス) id: af811dac15 (このIDを非表示/違反報告)
鹿子木(プロフ) - ありがとうございます。ご馳走様でした。これからも頑張って下さい。 (2018年10月3日 4時) (レス) id: d5c9836270 (このIDを非表示/違反報告)
よしのや(プロフ) - 妖狐の巴衛さん» そのセリフは雑渡さんの発言になります!! まだまだ小説初心者ゆえ、表現が拙く分かりづらくて申し訳ないですm(_ _)m コメントありがとうございました!! (2018年6月17日 23時) (レス) id: 7e36950532 (このIDを非表示/違反報告)
妖狐の巴衛(プロフ) - 「……尊奈門、忍術学園の忍たまだ」は誰がかけた言葉なんですか？ (2018年6月17日 21時) (レス) id: 2ff3e29f1d (このIDを非表示/違反報告)
よしのや(プロフ) - サラさん» ありがとうございます!! そう言っていただけると、すっごく励みになります(=´▽`=) (2018年4月5日 22時) (レス) id: 5bb94c3c23 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よしのや | 作成日時：2018年3月27日 20時
