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、、 ページ9

坂木はスケッチブックをテーブルに立てかけ、なにか書き出した。

『私のこと、聞きましたか?』

声のことだろう。

しかしその返答は、簡単ではない。

「・・・うん。
大変だな、十文字って・・・」

悩んだところで、この程度の返事しかできなかった。

『あまり気にしないでください。
これまで通りで』

「うん。
あ、昨日はごめんな。
なにも知らないのに、しゃべれるじゃんとか不躾に・・・」

坂木は気にしていなさそうに微笑んだ。

難しい気の遣い方をさせてしまっていることにも、慣れているのだろうか。

「でも正直言うと、まだ信じられないよ・・・。
聞いたこともないし」

本心を漏らすと、坂木は切ない笑顔で視線を落とす。

『たぶんそれが正しいです、すみません』

「・・・・・・」

すみません、その五文字がひどく悲壮感を感じさせる。

まるで彼女のこれまでを物語っているような言葉だった。

さて。

ここまでのはいわば事務的な会話だ。

坂木が求めているのはこの先。

ごく普通の世間話なのだろう。

坂木のペンが走る。

細い音を立て、坂木の声が形になっていく。

『内山くんは、部活には入ってないのですか?』

高校生が織りなす会話としては、定番の話題だ。

そんな普遍的な質問をするにも、坂木はわくわくとしているようだ。

「部活はプール部にはいってたけど、やめたよ。
うち母子家庭でな。
家のことしないといけないんだ」

口にした直後、失敗に気づいた。

この情報は一般に、すんなり受け入れられる事柄ではない。

その証拠に、坂木の顔色がどんどんと青くなっていく。

『ごめんなさい』

高速で走らせた文字に、その心情が滲んでいるようだった。

「だ、大丈夫!
物心つく前にはいなくて、父親ってもの自体がわからないくらいで・・・」

いきなり気を遣わせて申し訳ない。

こちらで軌道修正しないと。

「坂木なんかは父さんに可愛がられてただろ?
坂木みたいな娘がいたら絶対嬉しいもんな。
父さんはなにしてる人なの?」

上手く切り返したつもりだったが、なぜか坂木は顔をひきつらせる。

『私もいません』

やっちまったー。

「そ、そうか・・・いっしょだな・・・」

痛々しい同調にも、坂木は複雑そうな笑顔で頷いた。

もう家族についての話はやめよう。

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作者名:ゆん | 作成日時:2018年4月14日 23時

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