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やはり、喋れるのか。
でもじゃあ、なんで嘘を？
「ただ・・・七年前のとある事故による精神的なショックで、制限が与えられた」
その表情には俺に向けてではない、どこかへの憎しみが染み込む。
小花井先生は、焼き付くような眼光でもって、静かに口にした。
「あの子は・・・真衣は、一日に十文字しか話すことができない」
「・・・え？」
一日に、十文字？
なんだ、それ。
「・・・え・・・冗談、ですよね・・・？」
「もう一度言ったら殺す。
これは冗談じゃない」
殺意の宿る瞳に、肝が冷える。
子花井先生が冗談を言う人だとは思えない。
そんなことはわかっている。
だが、これはあまりに現実離れしている。
「学校など不特定多数の人間がいる場や、知らない人間を前にすると話せなくなる。
極力閉鎖された場で、知った相手になら少しだけ話せる。
その目安がおおよそ十文字なの」
「・・・それ以上話すと、どうなるんですか・・・？」
「その後は無意識に自制してしまう。
本人が話そうとする意思を持っても、声が出なくなるの。
でも翌日になれば、また十文字だけ話せるようになる。
各医療機関で検査はしたけれど、脳や発声器に異常はなかった。
要は心因性ってことね」
「そんな、呪いみたいな・・・」
「呪いだったらどんなにいいか。
発動者を殺せば、あの子は治るんだから」
小花井先生は苦虫を噛み潰したような表情で、そう言い捨てた。
俺はというと、にわかには受け入れられずにいた。
ある日を境に声が出なくなる。
見知った相手でさえ、十文字しか話せない。
それは、どんな気持ちなのだろう。
彼女にとって言葉とは、どのようなものなのだろう。
そのすべて、俺の想像のみで理解するには、あまりに無責任な難題であった。
放課後が訪れる。
教室に坂木の姿はない。
一足先に公園に向かったのだろう。
俺も公園に着くと、すぐさま昨日の場所へ歩みを進める。
青い屋根の下、ベンチに座る坂木は緊張した面持ちで佇んでいた。
俺を見つけると、ほんの一瞬息を呑むような表情を浮かべ、すぐに笑顔で上塗りする。
「ごめん、遅れたな、坂木」
坂木はカチカチに固まった笑顔で首を振った。
俺が向かいに座ると、坂木の視点は忙しそうに動き回る。
ただその反応は昨日とは違い、少し嬉しそうなものにも見えた。
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作者名：ゆん | 作成日時：2018年4月14日 23時
