【文スト】太宰治の奮闘記録

検討 ページ24

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『―――判りました』

「嘘でしょ判っちゃうの」

『考えてから答えますから、もう一回云って下さい』



至って大真面目に、私の都合の良い仮説を取り込んで、早速試みようとしてくれる彼女


前向きに考えてくれてるのは本当に嬉しいけど


改めて云ってと頼まれると、恥ずかしいものがある



だがチャンスでもある

平静を装って、ごほんと一つ咳払い




「……今、抱きしめてもいい？」

『………』



即答ではない、初めての沈黙


若干の居心地の悪さを感じ乍ら、彼女の口から発される返答の文言を待った



『………太宰さん』

「はい」

『厭です』

「わあ期待を裏切っていくね、胸が痛い」


態とらしく胸を押さえて、想像以上に深く刺さった矢の痛みを悟られないように努める


考えてくれただけでも、大きな前進―――…



『そうじゃなくて』





ここで彼女が、初めての仕草を見せた


視線を向こう側に固定して、髪を弄り乍ら、云いにくそうに、本当に小さな声で




『場所を考えて下さいよ……』


と、零した



―――何この可愛い生命体



「何処ならいいの」

『と、兎に角、人目がある所は駄目で＿＿＿ 』

「判った」

『わっ』



食い気味に了解して、直ぐさま其の腕を引いて路地裏に入った


未だ状況が理解出来ていないAの髪を撫で乍ら、諭すように教えてあげる



「ここなら、君が気にする人目は無いけど？」

『い、いい今ですか！？』

「おやおや、私は訊く時にちゃんと今って云ったよ」



じりじりと、既に僅かになっている距離を詰めるように前へ進むと

小さく声を漏らして後ずさるA



可愛いけど、甘やかしたいけど、いじめたい


ひしめき合う葛藤は、自然と私の両手を彼女へと伸ばさせた




「――逃げないでよ、A」


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