【文スト】太宰治の奮闘記録

器の広さ ページ12

.


繁華街を少し外れた裏通りにある小洒落たバー


そこがAのバイト先で

勿論、私の行きつけでもある


『――いらっしゃいま、せ…』

「やァA、久しぶり」


一週間ぶりに会う彼女は、相も変わらず可愛い


私を見た途端に営業スマイルをやめて、「相変わらず元気そうですね」といつもの笑顔

何度も云うが、可愛い


「君に会うと元気が出るみたい」

『よくそんな臭い台詞普通に云えますよね』

「Aに限るけどね」


抜け目無い私の口説き文句にも、「はいはい」と流石の対応をしてグラスに氷を入れ始める

私がいつも一杯目に飲むものは把握してくれてるらしい


「私の恋人になる準備は万端だね」

『意味が判りません』


Aが一番よく見えるカウンター席に腰掛けて、手渡してくれたおしぼりで一息


今日は、午前中から怒涛の書類整理で疲れた


『―――お疲れですか？』

「……凄い、よく判ったね」

『なんとなくですよ』


コースターにグラスを乗せ乍ら微笑むA

宛ら聖母のようである


他の常連の事もよく理解していて、同じように感じたら同じ事を云うんだろうが

そんな事で嫉妬する程、私は小さい男じゃあない


「Aちゃん、今日も可愛いね」

『はは、ありがとうございます』

「一寸おじさん、彼女は私の恋人だよ、気安く話し掛けないでくれる」

「あ、そ、そうなんだ、ごめんね」

『いえ、彼は酔ってるので、気になさらないで下さい』


如何やらAの事になると、私もそこら辺の小さい男に成り下がるようだ


.

本調子とは→←届く届かない

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す