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13.此処は何処? ページ15

そっと目を開けた。

開けた筈だが、真っ暗だ。

此処は何処だろう…?中也?姐さん?…A?

誰の声も、何の音もしない空間に、私は1人で立っていた。

異能…ではないだろう。

無効化されないのなら、これは……夢?

やけにハッキリとした夢だ。

「…誰も居ないのかい?」

あまりにも気味が悪い為、少し声を出してみるも、

返ってくるのは私の声だ。

誰も居ない…真っ暗な空間……まるで私そのものだ。

「兄さん…」

聞き慣れた声が後ろから聞こえた。

「A?君、居たのかい?」

私の問いには一切答えないが、表情は柔らかい。

小さく微笑んでいる。

「そこで何をしているんだい?」

矢張り答えない。ずっと私を見据えている。

もう1度名前を呼ぼうと口を開けた瞬間、Aが再び声を出した。

「付いて来て欲しい」

そう云うと、私に背を向けて歩き出した。

「何処に行くんだい?待ち給えよ」

私の声など届いてないようだ。

先を行くAに仕方なく付いて行く。

時折、こちらを振り返ると「こっちだよ」と誘う。

「こっち、こっちに来て」

「心配しなくともちゃんと付いて行ってる。

何処に行くかくらい教えて欲しいものだけどね」

ふふふと笑うだけで、答える気配はしない。

誘われるがままに付いて行く。

「A…私そろそろ疲れてきたよ」

少し辺りを見回しただけだった。

視線を戻すと其処にAは居なかった。

あれ、見失った…?

「よォ、太宰」

肩を叩かれ、振り返る。

案の定、挑発するような笑みを浮かべた中也が立っていた。

「なァに?今度は中也??ねェ、Aは何処に…」

「太宰、本当はやりたくねぇんだろ?」

ひゅっと喉が鳴った。

聞きたくなかった台詞だ。

だからあの時、2度目の言葉を遮ったのだ。

信じられなかった。あの子に情が移っていることを。

もう私は"兄ではない"と思っていたのに…

あの子に情が移っていた。

「何も思わねぇのかよ?」

聞いた。前も聞いた言葉だ。

私が否定した言葉だが、今は違う。

「何も思わない訳」

「思わないねぇ…」

違う声が聞こえた。近くだ。

私の後ろだ―――。

目の前の中也の視線は、いつの間にか後ろの人物に向けられていた。

慌てて振り返る。

判っていた。予想はしていた。


"包帯を巻いた蓬髪の男"が立っていることなど――……。

14.私は君で、君は私だ→←12.私は知りたい



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オタクなめんな - すっごく面白かったです。映画でも見ているよな感じでした。 (2018年8月15日 3時) (レス) id: edf769ece4 (このIDを非表示/違反報告)
入浴(プロフ) - ゆきみだいふくさん» 有難う御座います!喜んで貰えたようでこちらも嬉しいです! (2018年3月26日 19時) (レス) id: d6f7c6ac49 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきみだいふく(プロフ) - 完結ですね!おめでとうございます!!大好きな太宰さんの色々な面が見られて嬉しかったです! (2018年3月26日 18時) (レス) id: 5f17ef063a (このIDを非表示/違反報告)
入浴(プロフ) - きのさん» 良かったですw私的には成功です! (2018年3月26日 16時) (レス) id: d6f7c6ac49 (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - 泣ける (2018年3月26日 12時) (レス) id: e253f59a3b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:入浴 | 作成日時:2018年2月26日 16時

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