陸拾漆:気づきと決意 ページ21
伏黒side
「……」
白いカーテンが揺れる。握り締めた手は、今だ握り返されない。
ベッドに寝かせられた虎杖と同じ顔は、静かに息をしながら眠りの中にいる。俺はその顔をずっと、ずっと見つめていた。
あれから、もう5日経つ。何があったのかは分からない。が、虎杖が宿儺に変わったのは分かっていた。
アイツが大体一人にして欲しいと言う時は、宿儺に変わる時だ。
「"榎森を…!"」
自分だってボロボロなのに榎森を背負って帳の外まで来た虎杖を、俺と釘崎は伊地知さんの手も借りながら車に運び入れた。
榎森はそのまま治療へ。虎杖は交代した影響で傷は癒えていたものの、ショックだったのか暫くはいつものような元気が無かった。
そして傷も癒えて部屋に戻された榎森を、俺はずっと傍で見守っている。
5日間、ずっと目を覚まさない。食事だって取ってないんだ、そろそろ起きないと餓死するぞお前。
仄かに暖かさを宿した手を優しく撫でる。その手から手首に指を這わせ、少しだけ脈を計った。
…トク、トク、と、規則正しい心音が伝わってくる。
「……榎森」
あの時、俺は何も出来なかった。無力の前に膝を付いた。お前の胸に空いた風穴を、俺は忘れることは無いだろう。
だからこうして生きて戻ってきてくれて嬉しい。いや、違う。安心したんだ、俺は。
「……」
胸に擦り寄る。心臓の音が近く聞こえる。暖かい。人肌の温かみのある肌が、視界に入る。
「……好きだ」
そうだ。好きなんだ。俺は、榎森が。
失うのが怖い。傍に居ないのが怖い。俺の視界の中に居ないと、不安で不安で仕方なくなる。
いっそのこと閉じ込めて、もうあんな怪我をしないようにずっと見張ってやろうか。そう考えた。でも、それじゃ駄目なんだ。榎森は優しいから、きっと悲しむ。
「…だから、待っててくれ」
この言葉を伝える勇気は、今の俺には無い。相応しくない。
だから、お前に胸を張って伝えることが出来るように、俺はもっと強くなる。
「伏黒ー?まーた榎森にストーカーしてんだろ、早く行くぞ」
「ストーカーじゃねぇ」
釘崎の声に返事を返して、部屋を出る。柔らかな風が、送り出すように後ろから背中を撫でた。
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九龍-くーろん-(プロフ) - 日向さん» ありがとうございます!一気に読んで頂けるとは…!とても嬉しいです!更新頑張ります! (2021年1月24日 21時) (レス) id: 50fae09df6 (このIDを非表示/違反報告)
日向(プロフ) - 初めまして!主人公の設定や周囲との関係、ストーリーなどがとても面白くて1作目から一気に読んでしまいました!応援してます、更新頑張ってください! (2021年1月24日 20時) (レス) id: 0ceab624dc (このIDを非表示/違反報告)
九龍-くーろん-(プロフ) - 南蛮モナカさん» ありがとうございます!とても嬉しいです…!今後とも主人公達の道を見守って頂けると嬉しいです!更新頑張ります! (2021年1月23日 0時) (レス) id: 50fae09df6 (このIDを非表示/違反報告)
南蛮モナカ - 設定とかキャラ達の関係性?とか話の進み方とかすっごく好みです!更新がんばってください! (2021年1月22日 23時) (レス) id: 4ea39a9195 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年1月21日 17時