陸拾伍:所有物 ページ19
実side
……誰かの声がした。とても懐かしい声で、温かい。
「"実は、私が守る"」
鈴の音のような可愛らしい声。…この声はもしかして……
『り……か、ちゃ…』
【…!実…?】
喉から出た声は酷く掠れていた。うっすらと開いた視界の先に見えたのは、禍々しい姿の彼女と、虎杖。
【実、実…!だいじょお゛ぶ、ぅ?り、里香が守る゛、かラねぇ?】
里香ちゃんが俺の頬を撫でてくる。その大きな手にそっと手を添えて、少しだけ頷いた。
身体は痛くない。でも、血をだいぶ失ったようで力が入らない。意識を保つのさえ少し辛い。
『大丈夫、だから…、里香ちゃんは、憂太の、所に…戻って、あげて…』
【デも、実死ンじゃう゛ッ】
『大丈夫、だから…っ』
里香ちゃんが傷つく方が俺は嫌だ。
『里香ちゃんは、いい子だから…お願い、聞いてくれるよね…?』
【……う゛〜……】
少しだけ迷うように俺と宿儺を交互に見てから、里香ちゃんは煙のように消えてしまった。指輪に呪力が戻ったのを確認して、小さく息を吐く。と、不意に顔に影がかかった。
「まだ生きているか?榎森実」
『……残念なことにな…』
宿儺だ。呪いの王は俺を見下ろすように見つめた後、フッと虎杖の顔で微笑した。
「それは重畳。貴様にはまだまだ生きてもらわねば」
『…何故だ』
「何、単純な話だ。貴様は見ていて飽きぬ。どこまでその内の呪いを飼い殺せるのか、見てみたいのでな。それに…貴様自身にも興味がある」
グイッと胸元を掴まれ、引き寄せられる。間近に迫った四つの赤い瞳が細められると、「貴様は俺のものだ」と囁かれた。
「小僧をものにした暁には、貴様も傍に置いて飼ってやろう。故に死なれては困る」
『…噛み殺されないよう、気をつけろよ…っ』
挑発的に笑ってみせる。宿儺はニコリと微笑んだあと、突然俺の左目に何かを突っ込んできた。
グジュリと嫌な音が頭に響く。ブチブチと食い込んでくるような音がして、左目に激痛が走った。
『〜っ!!?』
「呪いの詰まった邪視の瞳だ。今の貴様にはさぞや辛いだろう?だが、まだだ」
赤黒く細い指。宿儺がそれを口に咥えると、ニヤリと笑うのが見えた。
「所有物には印を付けねばなぁ?」
唇が重なると同時に、ゴクリと喉が指を飲み込む感覚がした。
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九龍-くーろん-(プロフ) - 日向さん» ありがとうございます!一気に読んで頂けるとは…!とても嬉しいです!更新頑張ります! (2021年1月24日 21時) (レス) id: 50fae09df6 (このIDを非表示/違反報告)
日向(プロフ) - 初めまして!主人公の設定や周囲との関係、ストーリーなどがとても面白くて1作目から一気に読んでしまいました!応援してます、更新頑張ってください! (2021年1月24日 20時) (レス) id: 0ceab624dc (このIDを非表示/違反報告)
九龍-くーろん-(プロフ) - 南蛮モナカさん» ありがとうございます!とても嬉しいです…!今後とも主人公達の道を見守って頂けると嬉しいです!更新頑張ります! (2021年1月23日 0時) (レス) id: 50fae09df6 (このIDを非表示/違反報告)
南蛮モナカ - 設定とかキャラ達の関係性?とか話の進み方とかすっごく好みです!更新がんばってください! (2021年1月22日 23時) (レス) id: 4ea39a9195 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年1月21日 17時