鬼の名を持つ副隊長《2》

小さな異変 ページ28

総鬼side

あれから数時間が経った。ひとまず見廻りを終え、屯所に戻った俺は今、刀の手入れをしている。
まぁ…色々あったが不審者も無し、問題も無しで無事見廻りを完了できた。あとは書類の相手と軽い稽古ぐらいだな。

『(さっき何か軽く意識飛んだし、今日は早く寝るか…)』

真昼間にも関わらずそんな事を考えた。総悟みてぇに一回昼寝挟むか？
打ち粉を刀身に満遍なく叩いていく。ほんと顔が映るぐれぇ綺麗だよなこの刀。何度か試し斬りで色々斬ってみたが、切れ味も全く落ちねぇし、刃毀れ一つしねぇ。怪力の俺だと刀の数本折るってのに、コイツは俺の力に耐えやがる。

『……へへっ』

いい刀だ。物に意識があるなら、よく俺の所に来てくれたって褒めてやりてぇぐらいには気に入ってる。
丁寧に刀身を拭き、傷の有無を確認してから少しだけ刀身を撫でる。鋼の冷たさが指先に伝わって心地良い。

『…お前、別嬪さんだなァ…？ほんといい刀だ』

返事は勿論返ってこねェ。それでも言いたくなるほど、本当にいい刀だ。
そう、いい刀なんだ。だから本当に良かったよ、僕を扱えそうな器と出会えて…

『……疲れてんのかな』

何か変な考え事しちまうな。
頭を押さえて溜息をつく。やっぱり昼寝挟もうか。書類してる間に倒れるとかマジ勘弁……。
そうそう、ちゃんと寝ないとダメだよ。だって、

『君は僕の器なんだから』

突然出た自分の声に驚いて、思わず口を手で押さえた。何だ今の言葉…っ！

『…っ、気持ち悪ィ…』

昼間変な野郎の相手したからだ。そうに決まってる。
俺は真っ黒な刀を鞘に納めると、机に置いてからその場に寝転んだ。疲れだ。きっと俺は疲れてるんだ。そうに違いない。

そう思って目を閉じた。

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