伍拾伍*あの日の記憶 ページ7
伏黒side
……此処は、何処だ…?
目が覚めると俺は、いつの間にか実のお婆さんの家の縁側で目を覚ました。
……あの時、黒い靄が俺に入っていった時から、あまり憶えていない。記憶が曖昧で自分のものじゃないような感覚に陥る。
「…実?」
そうだ、アイツは何処に…
辺りを見渡しても誰も居ない。実も、実のお婆さんも居ない。何処に行ったんだ…?
『ばあちゃーん!』
元気な声が後ろから聞こえた。驚いて振り向くと、俺の後ろにある居間に小さな男の子が駆け足で入ってきた。
サラサラで少し跳ねている黒い髪に、綺麗な紫の瞳。間違いない、実だ。でも何で子供に…?
「よぉ千鶴さん。元気そうで」
「あらあら、甚爾さん。いつもすみませんねぇ」
な、何だ、これ…っ
目の前に居るのは三人だ。小さな実、実のお婆さん、そして、
知らない、黒髪の男。
何処と無く俺や実の顔に似ているその男を見ると、胸の奥がざわついた。俺はその男を知らない、はずなのに…何故か知っている気がした。
「紗枝も元気でやってるそうで…、いっつも手紙くれますわ」
「元気でやってねぇと、コイツの相手できませんからね。オラ実、危ねぇからあんまり走るな」
『えー!とーちゃん居るからいいじゃん!』
「何で俺が居たらオッケーなんだよ馬鹿、ガキは菓子食って大人しくしてろ」
『ぶ〜…ケチ!』
俺の目の前で、三人が話す。たわいのない会話だ。とても穏やかで、普通の日常だ。
俺はそっと小さな実に近づいて、その頭を撫でようとした。が、俺の手は実をすり抜けた。
…なんとなく分かった気がする。此処はきっと、実の中だ。アイツの記憶の中に俺は居る。
理由は分からねぇ。でも俺が寝ている間に何かが起きたんだろう。だからこんな変な状況になってるんだ。
「…実」
小さなアイツは、とても幸せそうだ。この子供がいつか呪われて、特級と呼ばれる呪いになるなんて考えられない。
辺りが真っ暗になる。前後左右も分からない暗闇が暫く続くと、今度は都会のマンションの一室に移った。
「此処は…」
見覚えがある。そうだ、この場所は…
最初に実と行った、あの廃マンションの中だ。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年3月14日 15時