伍拾肆＊犬狩り ページ6
実side
ブチリと嫌な音がした。噛み締められた歯がギリッと擦れると、恵の口からは獣の唸り声が漏れ出した。
この音は聞いたことがある。涼作さんの首が犬に変化して、吹き飛んだ時の音だ。
『やっぱ当たりか…っ』
呪具を構え直す。親父から貰ったこの呪具なら術式無効が効く。が、下手に近づいたら早めに首が飛んで恵が死ぬだろうな。で、次は俺に取り憑いて悪循環…となりかねない。
「何でっ、何で俺ばっかり…っ！！」
恵の声は掠れたような低い声へと変じていた。呪霊特有の掠れた音だ。恵の精神に癒着してる分、まだ自我がはっきりしていて聞き取りやすいが。
『恨む気持ちは分かるぞ。俺も呪ったことぐらいある』
俺も特級呪物なんでな。心の中で呟いてから、瞳に呪力を集約した。
さっき放った"
やろうとした瞬間に察知されて首が飛ぶ。脳を止めてもいいが、せいぜい3秒程度しか停止しない。それに、接近するにしても噛まれる危険があるから下手に近づけねぇんだよな…どうしたもんか。
いや、丁度いいのがあるな。手元の短刀を泥に変えて消す。様子を窺うように睨み付ける恵を見ながら、頭の中で術式のスイッチを切り替えた。
『("
「っ！？」
ビクンッと恵の身体が跳ねる。ブチブチと音を立てて切れかかっていた首の動きが止まった瞬間、俺は恵の元へと一直線に駆け出した。
呪力を封じた。時間は出力全開にしたから約30秒…っ、式神も変質もさせねぇ…！
動揺する恵に突進する。ガツンッとぶつかる衝撃と共に、俺と恵は地面に倒れこんだ。
「離せっ！」
『断る』
暴れる恵の手足を泥で拘束する。と、不意に恵がその場で大きく叫んだ。
ブワリと周囲に黒い靄が発生する。そして、黒い靄から俺に向かって一斉に犬の首が飛び掛ってきた。
『っ…！』
腕、足、肩、脇腹、あらゆる箇所を噛まれ、牙が食い込んでいく。コイツ、無理やり呪力捻り出したな…っ！
それでも拘束を解くわけにはいかない…っ、痛みを堪えつつ泥の拘束を強めた、その時だった。
『……ぁ…』
首筋に、激痛が走った。
まるで肉食獣が獲物を仕留めるように、身を乗り出した恵が俺の首に喰らいついていた。
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作者名：九龍 -くーろん- | 作成日時：2021年3月14日 15時
