陸拾伍*たまにはいいだろう ページ17
伏黒side
五条先生に悪戯をしてから、数時間後。俺は今、実の部屋に来ていた。
「返される、か…それって多分、呪詛返しの事じゃねぇか?」
『呪詛返し…?』
「嗚呼、そうだ」
コーヒーの入ったコップに口を付けながら頷く。犬神の件が終わって以降、俺達はこうして何も無い時は互いの部屋に集まるようになっていた。
「呪詛返しってのは、文字通り呪いを返すことだ。自分に向けられた呪いを逆に相手に打ち返す。光の反射みたいに、そのまま相手に呪い返すんだ」
『…成程…』
「…五条先生が言いたいのは、格上相手にその目の術式は効きにくいってことだろ。精神の同調なんて、言っちまえば相手と感覚を共有することだろ?…精神とか分かんねぇけど、もしかしたら、その術式が仇になって逆に相手の思想に呑まれるとか…そういう事故が起こりやすいってことを言いたかったんじゃないか…?」
俺がそう言うと、実は視線を机に落としたまま険しい顔を浮かべた。コイツにとっちゃあ、まだまだ未熟で不慣れな術式を物にしたいんだろう。でもリスクが高い以上、戦闘での使用は十分に気をつけなければいけない。それを自分が強いと確信している相手から言われたんだ、極めるべきか控えるべきか…そう考えてるんだろうな。
「…お前がやりたいならやればいい」
コップを置いて近くに寄る。実がふと顔を上げた瞬間に、軽く唇を重ねた。
「何があっても、俺がお前を守ってやる」
『…恵…』
だから、好きにすればいい。そう心の中で呟いて、再度キスをした。
小さなリップ音が耳朶を打つ。実の紫の瞳がとろりと微かに蕩けると、頬を上気させてすっと目を閉じるのが見えた。
こいつなりの、好きにしていいと言う合図だ。
「ん…」
唇を噛むように少し首を傾げて口に喰らいつけば、恐る恐る口が開かれる。俺は遠慮なく実の口内に舌を入れ、深く口付けた。
コーヒーの味と、ココアの味が混じって苦く甘い味が広がる。舌を絡ませると、ふっと実が目を開けた。
"好きだ"
突然、俺の胸にそんな感情が込み上げてきた。
"好きだ"
"愛してる"
"もっとこうしていたい"
背中に手が回される。求めるようにキスをせがむその姿に、ドクリと心臓が跳ねた。
「(好きだ、実…)」
溢れる気持ちが止まらない。まるで実と一つになったような、そんな気分だ。
紫色に染まった目を細めて、俺は長く深く、実にキスを贈った。
99人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年3月14日 15時