宇宙一の鈍 ページ10
総鬼side
勝負はついた。総悟の持つマガナギが砂のように崩れていく。ケフッと息を吐いて腹を摩りながら、総悟は俺の方に歩いてきた。
「旦那、次は邪魔者無しで殺り合ってくだせーよ」
…勝負あり。今回は、マガナギの負けだな。
「大丈夫か総鬼。不調とかねーか?」
『ピンピンですぜ。でも、マガツキが…』
持っていた剣を総悟に見せる。黒い刀身には僅かにヒビが入っていた。ほっとけば折れちまう。
「…命懸けてテメーを護ったんだ。捨ててやるなよ?」
『…分かってらァ』
頭を撫でてくる総悟に頷くと、俺の方に誰か来る気配がした。
「なぁ君。その刀…私に預けてくれないか?」
『アンタは…』
旦那と一緒に居た、刀鍛冶の…
「私ならその刀、直してやれる。…マガツキ本人の意思が戻るかは、分からないが…」
『…頼む。俺の…相棒なんでさァ』
折れるまで使ってやるって約束したんだ。こんなところで、こんな小さな怪我程度で手放したくねェ。
「嗚呼、任せてくれ。私が責任を持って君の相棒を助けよう」
刀鍛冶に刀を託して、俺は皆と共に屯所へと戻る。土方さんから借りた上着を羽織りながら、変に痛む胸を押さえた。
翌日。俺と総悟はあの刀鍛冶の元に来ていた。総悟が刀を新調したいとかで、俺も無理矢理連行されたんだ。
『サーヤの為とはいえ、どんな剣にするんで?』
「あー…変な剣ばっか使ってた所為かもう普通の使う気がしなくてよう。オメーもそうだろ?もうただの菊一文字じゃ満足出来ねーだろ。真珠入ってたり振動機能のある奴がいいだろ?」
〔いやーん、総くんたら!!総鬼くんの前で止めてよ〜!!〕
相変わらずだなお前ら…。
「悪いが、ウチにはそんな汚らわしい剣置いてないぞ」
後ろから聞こえてきたのはあの刀鍛冶の声だ。必死に鉄を打つその背中に、総悟は「そうかい」と声をかけた。
「俺ァてっきり真珠でも拾ってんのかと思ったよ。あれからテメー等四人地べたはいつくばって、必死に何か捜してやがったもんだからよォ」
「…砂利混じりのただの鉄の砂だ。ただ…砂利の中に真珠なんかより貴重な鉄が混ざってる。それらを合わせて刀を叩きあげるつもりだ」
それは手間のかかる事だな。だが…
「まっ、出来上がったら教えてくれや」
総悟はそれを使いたいらしい。
「いいのか?宇宙一の鈍になるぞ?」
「嗚呼、斬れなくて良いんだ」
「…どうせもう二度と、剣も鞘も離れねぇだろうから」
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年5月24日 2時