鬼の名を持つ副隊長《3》 (ページ46)

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刃で自己を制すページ46

山崎side

「よォ、待ってたぜ」

副隊長は目の前に現れた沖田隊長に声をかける。
沖田隊長は、無表情のまま副隊長を見ていた。目は虚ろで、それでも尚冷たい輝きを放っていた。

…やっぱり入ってるんだ。副隊長の半分が。

「俺を忘れたまま、生きるなんて許さない」

隊長が番傘を構える。副隊長は刀の柄に手を添え、抜刀の姿勢に入った。

「山崎、周囲の人に避難出しとけ」
『は、はいっ！』

そうだ。こんな往来で斬りあったら…周囲の人に被害が出る。
今は副隊長だけ意識してるからいいものの、変に人でも割り込んだ時、どうなるか分かったモンじゃない…！

俺は周囲の人払いを始める。出来るだけ適当な理由をつけて納得させ、人を遠ざける。

その時、後ろから鋼同士がぶつかる甲高い音が響き渡った。

振り返る。見れば副隊長と沖田隊長が互いの得物をぶつけあっていた。
殺意に燃える赤と黒の瞳が交差する。立ち位置を入れ替えるように交差した両者が、今度は斬り合いに突入する。

番傘が空気を切り、副隊長に打ち込まれる。その圧倒的な力を持って振り下ろされる番傘を、副隊長は俺の身体であるにも関わらず紙一重で避けていく。
凄い…俺の身体能力を考えて動いてる…！

「なァ夜兎。そろそろ俺の所に戻ってくれねぇか？いい加減、総悟のドS発言聞きたくなっちまってよォ」
「黙れ」

余裕だ…口調からそう感じ取れた。下から上へ振り上げられた番傘を、副隊長は踏みつけて地面に縫い留める。
ガクリと前に倒れこんだ隊長に、副隊長の膝蹴りが入った。膝がめり込み、腹からミシィッ…と嫌な音が鳴る。
「かはっ…」と隊長が苦悶の声を吐き出す。それでも副隊長は、容赦無く剣を突き立てようと刀を水平に構えた。

その腕を、隊長が掴む。副隊長が咄嗟に腕を引こうとしたのも束の間、骨が軋む音が腕から鳴った。

『副隊長！』
「っ…！」

どうしよう…このままだと腕が折れる！でも俺が出来る事は…っ

いや、ある…！俺は腰元に提げた自分の刀を抜いた。

『副隊長！コレ使ってください！』

副隊長の方に、抜き身の刀を投げる。真っ直ぐ飛んだ刃を、副隊長は掴んだ。

「…サンキュ」

微笑が漏れる。その笑顔は途端に闘志に燃える表情に塗られた。
副隊長は目の前で自分の腕を折ろうとする隊長目掛けて、刀を振り下ろした。避けようと離れた隊長の胸に、刃が滑り込む。

真っ赤な血が、地面を濡らした。