そう簡単には離してくれねェ ページ32
総鬼side
「待てよ」
土方さんの声に足が止まる。肩越しに視線を送れば、土方さんは静かに話し出した。
「…テメーは春雨の一員で、鬼兵隊の一員でもあるんだろ?」
『……ま、まァそういう事になりやすが…』
「つー事は、テロリストの一員って訳だ」
…雲行きが怪しい。静かに話す土方さんの声に不安が募る。
「なら…捕まえねぇとな」
『…!』
フッと笑う土方さんが俺を見る。その笑顔を見た時、俺はある事に気づいた。
総悟が、居ない。
「後は任せたぞ」
土方さんが煙を吐き出した瞬間、右から物凄い勢いで殺気が迸った。
『っ…!?』
即座に刀を抜き、降りかかった刃を受け止める。打ち合わさり火花を散らす刃の先に、殺気を湛えた紅の瞳があった。
刀を横に振り、刃を流す。入れ替わるようにして立ち位置を変えては、斬りかかってきたその背中を睨みつけた。
『テメェ何しやがる!』
「…土方さーん。捕縛出来りゃあ、何してもいいんですよねィ?」
…何考えてんだコイツァ…。ゆらりと立ち上がった背中に、ゾクリと冷たいものを感じる。
「嗚呼、好きにしろ」
「程々にな!総悟!」
何で笑いながら声掛けてんですかィ…!!叫びかけたものの、眼前に刃が突き出され声が引っ込む。鈍色の刃を突きつけたまま、総悟がニッコリと歳相応の笑顔を見せた。
「んじゃ、手足落として飼ってやらァ」
その時の総悟の目は、本気で怖かった。死ぬかと思った。
『何でこうなるんですかィ…!』
手錠を嵌められ、再度会議の場に戻された俺は、クスクスと笑う三人を睨みつけた。
総悟の野郎…斬らずに足払い決めてから拘束しやがって…!一瞬シリアスになるかと思ったじゃねーか!!
「いや、お前ならそう言うだろうと思ってな」
…は?な、どういう事でさァ…っ
「春雨に鬼兵隊か…。上等だコノヤロー、全員纏めてしょっぴける良いチャンスだ」
「俺の総鬼を餌にすんな土方コノヤロー」
総悟が土方さんをつつく。呆然とした俺に、近藤さんは優しく声を掛けてくれた。
「お前さんが出て行かなくても、俺達は大丈夫だ。逆に、出て行かれちゃ困る。一番隊副隊長の居ない真選組は、忽ちやられちまうだろうなぁ」
『…でも』
「近藤さんが大丈夫って言ってんだ」
総悟が俺の傍に来る。そして乱暴に俺の頭を撫でた。
「…此処に居ろ」
…言葉が出ねェ。この部屋に居る全員が、温かい笑顔を向けていた。
『…ありがと』
ようやく出た言葉は、震えていた。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年5月24日 2時