人の皮を被った化け物 ページ4
沖田(マガナギ)side
『忘れてんじゃねーぞ』
耳元で囁かれた言葉と共に、腹を熱い塊が貫いた。血を纏って飛び出た刃が、血液を美味そうに舐めながら俺の腹から顔を覗かせていた。
鞘を持つ手に雪のような白い手が添えられる。俺が入ろうとしていた鞘を奪うように、物凄い力で引き抜かれた。抵抗しようとしてもびくともにないその手に、僅かばかり恐怖が飛来する。
「き、さま……っ」
『テメーにはもう一人、始末しなきゃあならねぇ奴が居る事を忘れてるだろーが』
血を零して睨みつければ、背後から俺を急襲した副隊長殿がその行動に似合わぬ優しげな笑顔を浮かべた。
途端に刃が引き抜かれ、激痛が走る。喉を込み上げる血塊を吐き出せば、地面にビシャリと赤い池を作り出した。
「(あの男…この器にも動じないか…っ)」
俺に向かって剣を向ける凛とした目には迷いが無い。この器と同じ顔を持つその男は、背後に佇む銀髪の男に向かって一言二言吼えた後、俺を見て獣の笑みを浮かべた。
『さっき言ったよな?テメーは俺を第二の器にするってよォ。でもコイツが居ちゃあ…その夢も泡と消えるぜ?』
「…自ら器になりに来るとは…望み通り貴様も喰らってやろう。俺の腹の中で二人仲良く会わせてやる」
『そりゃ御免だ。もう調教されるのは嫌なんでね』
傷は大したものではない。という事はこの男は器が死なない程度で攻撃をしてくる筈だ。
ならば…
「(此方が死ぬ気で斬りかかればいい…!)」
幾らこの器を仕留めた事があると言えど、今の俺には敵うまい!
飛び込むように奴の元へ駆けて行く。眼前まで瞬時に迫れば、その胴体を下から上へ斬り上げた。
「…!?」
手応えが無い…!?
『遅ぇよバーカ』
トン、と背中を叩かれる。数歩つんのめった俺が振り返れば、嘲笑うかのようにソイツが立っていた。
『何処斬ってんだ。俺はこっちだぜ?』
「この…っ!!」
そのまま横へ薙ぐ。それすらもしゃがんで避けられれば、縦横無尽に刃を振り翳した。
合間も無い斬撃の中では避けられまい…!!
『遅ぇなァ…普段の総悟より遅ェ』
「なっ…!?」
ば、馬鹿な…っ、この刃の中を掻い潜って…!?
『俺と同じ喰らった分強くなる天人だから期待してたが…こんなモンか』
刃を全て避け、目の前に迫ったソイツが笑う。手にした刀を振り上げる事も無く、ソイツは弄ぶように俺を翻弄していた。
8人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年5月24日 2時