病院での秘め事 ページ30
総鬼side
夜兎の奴等に攫われる事件から数日、俺は暫く入院する事になった。
医者のおっさんはよく真選組の奴等を見るらしく、近藤さんが事情を説明して俺の詳細を外部に漏れないよう念押ししてくれた。
…いい人達に恵まれたなァ…
「体調の方はもういいんで?」
『まァ復帰は明日ぐらいにでもしまさァ。おっさんからも退院して良しって言われてるしな』
丁度寝飽きてたところだ。見舞いに来た総悟が剥いた林檎を頬張りつつ、屯所に戻ったら何をしようかと思考を巡らせる。
とりあえず道場には行かねぇと。鈍った身体を無理にでも叩き起こさねぇとな…
「…総鬼」
不意に総悟が俺を呼ぶ。何だと其方を向けば、総悟の顔が間近に迫った。
『…近いだろーが。離れやがれ』
「嫌でィ。…二人きりの時ぐれぇ、させてくれや」
何時もと違う調子の声。何処か切なげな表情の総悟が、俺の頬を撫でる。
そのまま、静かに唇が重なった。
「…」
突然の事に驚く俺を置いて、総悟は俺から離れる。そのまま、俺の肩に額をつけた。
「……テメーが夜兎の血に呑まれた時……怖かった」
ポツリと話し出す。俺は静かにその声を聞いた。
「俺の知るテメーは戻ってこないんじゃねぇか、そう考えて心臓が止まるかと思った。火傷を負ったって聞いた時も、俺の所為だって、すぐ思った…」
『…総悟……』
しおらしい。何時も小生意気なコイツが、何故か酷く幼く見えた。
「……総鬼…俺は」
震える声。…その先の言葉は、もう分かってらァ。
「俺は、テメーの事が」
顔を上げた総悟の口を、今度は俺が塞いだ。目を開く総悟の真っ赤な目を見つめたまま離れる。
『…その言葉は、俺が貰っとく』
口元に指を添えて笑ってやる。途端に総悟は顔を赤くした。…まだガキだな、ウチの隊長は。
「テ、テメー…っ!!」
「お、今日も見舞いに来てたのか総悟」
『お久し振りでさァ、近藤さん』
「…!」
ドアを閉めながら入ってきた近藤さんとたわいない話をする。その間、ずっと飲み込んだ言葉を反芻した。
"俺は、テメーの事が好きだ"
『(この言葉は人に聞かれないように、俺の腹ん中で響けばいい)』
総悟の甘い蜜の囁きは、俺だけのモンだ。
俺が決めた事 アイツが決めた事→←夢のようで、温かい人だった
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年5月24日 2時