鬼の名を持つ副隊長《3》 (ページ27)

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夜兎としてのアイツページ27

沖田side

何が起こったのかは分からねェ。気づいた時には、壁にぐったりと寄りかかっていた。
背中と、腹が痛む。痛みで軋む身体を起こせば、隊服に積もった瓦礫の破片と共に、真っ赤な雫が数滴落ちた。

「(何が…)」

頭が酷く痛む。かなり強く打ったみてぇだ…っ
気持ち悪く歪む視界の中、俺の方を向く総鬼が見えた。

『…ふ、はは……』

虚ろな声。薄い笑みを浮かべてフラフラと揺れるその姿は、何かに酔ったみてぇで不気味だ。
でもそれ以上に、ソイツの手に視線が向く。

右手は新しく付いた血で濡れていた。まさか…

「(俺を、殴った…？)」

だがそんな動きも何も見てねェ。本当に俺は、アイツに殴られたのか？

『はは、ははは…！』

総鬼が笑う。ゆっくりと上げられた顔は、狂喜の笑みを浮かべていた。その笑顔に背筋が凍る。
俺と同じ赤い目が、正気を失って暗く淀んでいた。

「総鬼…っ、目ぇ覚ませ！！」

叫んでも反応は無ェ。ただ血で汚れた拳をゆっくり持ち上げた。そして消える。
瞬間的に生まれた気配だけを頼りに、俺はその場から右へ転がった。俺の居た場所が、派手な音を立てて粉砕される。真っ直ぐ拳を打ち込んできた総鬼は、横目で俺の位置を確認した。拙い…っ

抜刀してアイツの腕目掛けて斬りかかると同時に、拳が飛んでくる。
刃はアイツの腕に襲い掛かり、深い傷を無数に付けていく。が、それでも勢いは止まらねェ。

チッ、ふざけんなこの馬鹿力が…っ！！

紙一重で避け、懐に入る。抉られたような傷が残る腹に向かって、刃を突き刺した。
肉に潜り込み、澄んだ切っ先が背中を突き抜ける。ドンッ、と勢い良く総鬼にぶつかった俺は、吐き出される血塊を頭から被った。

「おぉ～…やるねぇお巡りさん」

拍手の音と賛辞の声。
声の方を睨みつけ、まだフーッと荒く興奮したような声を漏らす総鬼を無理矢理抱え上げる。

「テメェ…っ」
「あ、怒った？まぁ許してよ、その子がまた強くなった時にでも貸してくれれば良いからさ」

誰が貸すか…っ！！これは俺のだ、テメーになんか貸さねぇよ！！

「今回はここまでかぁ…まぁ楽しめたし、また遊んでよ。兎さん」

途端に俺の体が壁に投げ出された。いつの間にか俺達を囲んでいた夜兎の奴等が、総鬼越しに俺を蹴りやがったんだ…っ
分厚い装甲の壁をぶち抜いて、海に投げ出される。腕の中に抱き込んだ総鬼と一緒に、暗くなった夜の海の中に落ちていった。