愉しい時間 ページ23
神威side
「やぁ、来たねアヤト」
広い空間に現れた黒い隊服の彼に手を振る。見てよ、真っ赤な目で俺を睨むところがとっても可愛いらしい。
『綾斗じゃねェ、俺は沖田総鬼でィ』
「へぇ、アヤトじゃなくて総鬼って言うんだ」
ただでさえ強いくせに、血を浴びただけ更に強くなる夜兎なんて貴重だろ？俺が殺す相手にぴったりだ。
「阿伏兎、手を出したら殺すから」
「言われなくても化け物同士の争いに入る勇気は無ぇよ。存分に遊んでろ」
手を鳴らしていつでも動けるようにする。彼は警戒してるのか険しい顔で刀の柄に手をかけた。
『俺が勝ったら此処から出してもらうからな』
「条件付きかぁ…。いいよ？その代わり、俺が勝ったら…」
死ぬまで遊び相手になってもらうから。
静かな空間に緊張の糸が張る。その糸を断ち切るように、俺の方へ一筋の風が舞い上がった。
咄嗟に手を突き出して掴む。身体を斬る一歩手前で手を掴んだ俺に、目の前の紅は驚愕に見開かれた。
いいねその顔、あのお巡りさんだったら浮かべない顔だ。
「残念」
にっこりと笑って腕を捻る。ゴキリと嫌な音が鳴って、あっさりと手首が折れた。脆いなぁ…
『っ…』
握っていた刀が落ちる。けど、その刃は真っ直ぐ俺の顔目掛けて向かってきた。
手を離して後ろに下がる。刀は俺の頬を裂いて背後の壁に突き刺さった。
『嘗めんなよチンピラ』
蹴った。落ちる刀の柄を蹴り上げて、矢のように飛ばしてきた。痛みを感じながらそんな芸当を瞬時にやるなんて…
「(脆いけど芸達者だね)」
頬を伝う血を舐め取って走り出す。得物なんて要らないよ、楽しむなら…拳が一番だ。
拳を真っ直ぐ突き出す。横に避けたソイツが足を振り上げるのが見えた。
脇腹目掛けて放たれた蹴りを受け止め、足を掴んだまま放り投げる。宙に投げ出された総鬼は上手く着地したけど、其処に間髪入れずに拳を叩き込んだ。
『かはっ…！』
腹にめり込んだ拳が彼の内側を抉る。空気が吐き出される声と共に、苦悶の表情を浮かべる彼の顔が見えた。
「痛かった？」
でも、これで終わりじゃない。反対の手で頭を掴み、そのまま地面に向けて思いっきり叩きつけた。地面に放射状の亀裂が入り、割れた床の破片が舞い上がる。
「やり返しなよ、このままじゃ一方的でつまらないじゃないか」
折角見つけたんだから、俺を楽しませてよ。
『上等だこのやろう』
声と共に、黒い結晶が俺に襲い掛かった。
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作者名：九龍 -くーろん- | 作成日時：2023年5月24日 2時
