最後まで抗えと、そう教わったんでィ…! ページ7
総鬼side
人の居ない所に少しでも行かねぇと…またこの腕は人を斬る。
歩き続けていれば、既に日は傾いて真っ赤に染まっていた。もうじき俺の意識も薄れていくだろうな。
『好き勝手は、させねぇっての…!』
自害しようとしても、もう身体は言う事を聞かねェ。死ぬ事も生きる事も諦めた俺が、今出来る事ァ…唯一つ。
皆を、総悟を二度と斬らねぇように離れる事だけだ。
もう沢山なんでィ…っ、血を浴びて、人の死体を踏み越えていくのは。罪の無ぇ奴らの死に顔を見るのは、もう…っ
『…最後に、アイツの顔が見れて良かった…』
ちょっと痩せちまってたが、それでも…昔の色男は失われてなくて。ほんと、懐かしかった。俺がこんなじゃなきゃあ、今にでも抱きつきに行きてぇぐらいに。
もう、それも出来ねぇんだな…。
…日が暮れる。暗くなるにつれて、俺の頭に頭痛が走って酷く痛んだ。
『っ、まだ…駄目だ…っ』
まだ意識を保て、俺…っ!まだこの場所は、総悟の居る場所に辿り着いちまう…!
赤い夕日が次第に落ちていく。一心不乱に走って行けば、広い道に出た。
…何の偶然だろうか。その場所に着いた瞬間、胸が跳ねた。
『……此処、は…』
嗚呼、何で。何でこの場所に来ちまったんだ。
始まりの場所、幸せの場所、殺風景な建物が並ぶ道。それでも此処は…俺と総悟が最初に出会い、そして恋を始めた場所。
何で、此処に来ちまったんだよ…。
「やっぱりな」
聞こえた声に目を開く。恐る恐る振り返れば、視界に綺麗な栗色の髪が映った。
「此処に、来ると思った」
赤い着物に、白い袴。白い襟巻きが薄暗い日の光に照らされて、静かに揺れている。
…何で、何で、此処に…
「…迎えに来たぜィ、総鬼」
…っは、はは…。馬鹿だろ…お前…
『…何で、迎えに来たんでィ…っ』
嬉しくて、涙が出て、でも、これから起こる事を予想して、胸が張り裂けそうだった。
『この、馬鹿総悟…!』
「っは、やっとお前の声聞けたな。…元気そうで何よりでィ」
総悟は笑って刀を抜く。その手に握る得物は、俺の愛刀である真っ黒な刀だった。
「…大丈夫。もう、大丈夫ですぜ」
刀を向けて笑う総悟の顔が霞む。既に日は落ちる寸前で、暗闇が道を支配していた。
「もう一人には、しねぇから」
あぁ、もう。何でそんな事言うんだ。
月光を抜いて静かに笑う。道場で朝、二人で対峙するように刀を向けた。
『…ありがとな』
「おうよ」
頬を伝う熱い雫を最後に、俺の意識は切れた。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年6月15日 2時