月下の君に想いを叫ぶ《2》 (ページ3)

今日:10 hit、昨日:34 hit、合計:5,143 hit

もう昔のようには戻れねェページ3

総鬼side

『ま、冗談抜きに本気で殺してくだせぇよ。もうさっきみてぇな光景は…見たくねぇんでさァ』

笑いの余韻を残しても、思い浮かべるのはさっき斬り捨てたあの映像。髪も伸びちまって、随分と大人びた総悟を、俺は…斬った。この手で。

『もう、この手でアイツを傷つけるのは…』

微かに震える手を握って、蹲る。何で俺はいつも、こうなんでィ…っ
アイツと離れちまって、生き延びたってのにまたこうして苦しめる。皆俺を待ってるってのに、このままじゃ…

皆を、俺が斬り殺す未来が見えた。

「…ほんと、いい夫婦だよお前ら」

旦那はそう言って俺の頭を撫でる。顔を上げれば、優しく微笑む旦那の顔が見えた。

「テメーはいつもそうやって背負い込んじまう。アイツもそうだ。自分の大切なモンの事になると、すぐ自分なんて捨てて走って行っちまう」

撫でる旦那の手が温かくて。目を細めてその温かさに甘えながら、旦那の低くて心地いい声を聞いた。

「だから…その背負ってるモン、俺に分けてくれや」
『…どの位ですかィ？』
「ぜーんぶ。テメーが苦しんでる分、俺も苦しんでやらァ」

…もう機械弄りで悲鳴上げてるくせに。たくっ、この旦那は…

「…アイツの事は俺に任せな。だからテメーは、テメーでその腰のモンどうにかしやがれ」

手が離れ、旦那はヒラリと手を振る。その姿を見ながら、俺は立ち上がった。

『…旦那』
「おうよ」
『ありがとうごぜぇやす。…少なくとも、アンタにアイツを任せられるなら…』

俺は心置きなく、死ねるってモンでィ。

「…後は任せな。誰かに見つかる前にさっさと行きやがれ」

旦那は素っ気無くしっしっと手を振って俺を送り出す。そんな旦那に一礼して窓の外を見れば、もう既に朝日が差し込んでいた。

『…行ってきやす』

窓を潜り抜けて隣の家屋の屋根に移り、工場を後にする。その間ずっと頭にあったのは…ただ一つだ。

『…悪ィな、総悟』

胸元に提げた指輪に口付けて、また暗闇を目指し走って行った。