尋常じゃねぇ様子。そんな姿は夢幻のように… ページ17
沖田(過去)side
たくっ、本当に気が乗らねぇや。朝っぱらに総鬼と道場で手合わせして機嫌良かったってのに、その総鬼は書類整理。
俺も土方さんにサボるなとどやされ…いや、総鬼の放った一言『サボったら殺す』に戦慄した俺は、珍しくサボらずにこうやって仕事してんだぜ?ほんと、ウチの嫁さんは鬼嫁だ…。
「夜になったら一緒に居られるからいいけどよ…」
今日は夜に密輸船に乗り込んで暴れ回るっつー仕事が待ってる。それまでの辛抱だな。あーぁ、早く総鬼の元に帰りてェ〜…。
……ん?
「何だ…?」
今、血の臭いが…
足を止めた瞬間、右の路地裏から二本の手が伸びてきた。
「っ!?」
油断してた俺は口を塞がれ、そのまま路地裏に引きずり込まれた。地面に投げ出された俺が睨み上げると同時に、俺の上に誰かが乗ってきた。
「…な…っ」
その顔を見て驚く。ソイツは栗色の髪を一つに纏めて、赤い着物に白の袴を着込んだ、あの、何処ぞの抜刀斎みてぇな格好をしていた。
衣服は血に塗れ、目を背けたくなる程の傷を身体に刻むソイツが、じっと俺と同じ赤い目を向けていた。
「…お前…沖田総悟かィ?」
何だコイツ…声も、俺と同じ…!?
「…そうだと、言ったら?」
もしかしたら…以前襲ってきた影族の事を思い出す。まさか、コイツあの時討ち残した残党なんじゃ…
「よく聞きなせェ。今から話す事は、嘘みてぇだが本当の事だ」
ソイツは真っ直ぐ俺を見ながら話し始めた。血の香りが濃くするってのに、ソイツは平然としていた。何だ、コイツァ…。
「今日の夜、密輸船の討ち入りがあるだろィ」
「!何でそれを「いいから聞きな。…その任務中に、テメーは総鬼とはぐれる。助け出そうとしても、助けられねぇ状況に陥る筈だ」
…どういう事だよ…それ。
「瓦礫が前を塞いで、アイツを助けられなくなる。だからテメーはどうにかして、瓦礫をぶっ壊す手を考えな」
「な、何言ってんだテメー…!」
「じゃねぇと、総鬼を自分の手で殺す事になるぞ」
「…!」
ソイツは静かに自嘲気味の笑みを浮かべた。その視線が、自分の手に落ちる。
「…俺に、総鬼を殺させねぇでくれィ…」
「……お前…」
その体が透け始める。陽炎のように姿が揺らめくソイツは、段々目の前で薄れていった。
「未来で待ってる」
その言葉が、俺しか居ねぇ路地裏に響いた。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年6月15日 2時