弐拾弐:言う事を聞かない ページ23
虎杖side
「待てよ榎森っ!!」
向かって来る呪霊を殴り祓って走る。襲い掛かる呪霊を祓いながら、4階で遂に白いフードの後ろ姿を視界に捉えた。
「ちょっと待てって!何が居るか分からないんだからっ、一人で行こうとするなよ!」
『……』
声をかけても榎森は止まらなかった。丸腰のまま呪霊の群れの方へ歩いていく。
1匹の呪霊が榎森に気づき、口を開けて飛んできた。鋭い牙から涎を撒き散らし、榎森の頭を砕こうと大きく口を開ける。
「榎森っ!!」
呪力を拳に込めて咄嗟に駆け出した、その時だった。
榎森を襲った呪霊は、榎森の目の前で細切れに崩壊していった。
『……』
榎森は動いていない。ただ足元からドロリとした水が溢れ出して、それが次々と襲い掛かる呪霊を斬り刻んでいく。
6つに両断され、首を刎ね飛ばされ、床一面に呪霊の死骸が転がっていく。
「(あの時の…!)」
俺があの時見た術だ…!
俺は呪霊の群れを屠り、5階に向かおうとする榎森に駆け寄って肩を掴んだ。
「榎森!お前は強いかもしれねぇけどさ、危ないから一緒に行こう!な?」
『…』
ぐぐ…と前に引っ張られる。話も聞かずに上行こうとしてるな…!
「っ!」
俺は勢いよく榎森の肩を後ろに引っ張った。
バランスを崩した榎森は俺の横を通り過ぎ、マンションの廊下に尻餅をついて倒れこんだ。
「ちょっとは俺の話も聞いてくれよ!今伏黒が俺達の為に残って戦ってるんだっ、一人で突っ走って怪我したら、伏黒も俺も心配する!俺はお前に怪我して欲しくないんだよっ!」
自分でも信じられない程の言葉と声量が喉から出た。
肩で息を切るぐらいの大声を出し終えても、榎森はしんと静かなままだ。
「っ、ちょっとは反応して__」
言葉は途切れた。気づいたんだ。雰囲気がとても落ち込んだものに変わったことに。
「……ご、ごめん…」
『……』
返事は無い。でも分かる。榎森は今"ごめん"って俺に謝ってる。
「…俺もちょっと言い過ぎた。でも一人で行くのは危ないから、一緒に行こう?な?」
『…』
手を差し出すと、恐る恐る手を握られた。俺は榎森を立たせると、二人で一緒に5階に向かう。
きっと一緒に任務が出来て張り切りすぎたんだろうな。ちょっとだけ可愛いかも。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年1月12日 16時