何も憶えていないのに ページ35
鬼一side
「お前がどんな天人なのか、教えてやろうか」
顔を上げると、晋助は楽しげに笑っていた。頭を撫でる手もそのままにじっと見つめてくる緑色の瞳が、ただ静かに俺を捉えていた。
『…分かったのか?』
「ある程度はな。うちの参謀の腕は知ってるだろ」
『……はは、流石だな』
皆、俺の為に情報集めをしてくれていたのか……
手を離して座り直した晋助は「どうだ?」と俺に再度問いかけてくる。勿論、答えは一つだ。
『聞かせてくれ』
俺は自分の身体の事をよく知らない。だからこそ知りたかった。
「良いぜ、教えてやるよ」
晋助はそう言って、煙管で煙草を吸いながら話し始めた。
晋助達が集めた情報によると、俺は夜兎と影族と言う二つの天人のハーフらしい。
俺の身体は夜兎特有の肌の白さと怪力、影族特有の変身能力を引き継いでいるから、頑丈で変幻自在なのではないかとの事だ。
『なら、この再生力も遺伝だと?』
「あぁ、親譲りなんだろうよ。夜兎はンな化け物じみた回復力は持ち合わせてねぇから、もう片方の能力なんだろうなァ」
『…その影族という天人の事は分からぬのでござるか』
「まだよく分かってねェ。希少な天人なのか、資料が全く無ェんだと」
そうか……。…いや、血の出処が分かっただけでも上々だ。
「…鬼一?」
『……ぁ……』
気づけば自然と涙が溢れていた。サングラスを外して涙を拭っても、溢れ出ては頬を伝い落ちていく。
驚いた様子で俺を見る晋助の前で、俺は不覚にも涙を止める事が出来なかった。
『す、すまぬ…っ。すぐ止める、だから少し待って…』
煙草の香りが強くなる。視界いっぱいに広がる紫を帯びた黒髪と、黄色い蝶の飛ぶ着物。
まだ少し痛む熱を持った背中に優しく腕が回ると、そっと体を引き寄せられた。
「…良かったな」
一言。ただ静かに聞こえた晋助の言葉に、今まで我慢していたものが音を立てて壊れた気がした。込み上げる安心感に思わず晋助の背中に手を回し、声を上げて泣いてしまった。
良かった。俺は今までこの身体が怖かった。自分が異常なのだと思っていた。周りと同じ姿だと、人間の姿だとどうしてもそう思ってしまって……奇異の目で見られるのが酷く恐ろしかった。
だから、俺のこの力は普通なのだと、そういうものなのだと知った時、良かったと安心した。
良かった、嗚呼、本当に。俺は何も、何もおかしくなど無かったのでござるな……っ
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九龍(プロフ) - 連夜さん» コメントありがとうございます!こちらはこちらでまた色々と違った道を辿ると思いますので、楽しみにしてて下さい!無理せずに更新頑張ります!! (6月3日 1時) (レス) @page29 id: c0b6840b43 (このIDを非表示/違反報告)
連夜 - 真選組の方も見ました!!高杉晋助カッコイイっス。鬼兵隊は家族って感じがなんかします。真選組は同志とか兄弟みたいな。主人公も少し設定が変わってて、真選組との絡みも前世?の記憶みたいで面白いです。応援しています。無理せずに。 (6月3日 1時) (レス) @page29 id: 433cf63c41 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年5月29日 1時