嗚呼、妬ましい男だ ページ11
芥川said
数日前、志賀さんの下に新入りが数名入った。
志賀さんとしては喜ばしい事だろう。マフィアは生死の関わる組織、人員など居れば居るほど有難いものだ。
だが、その数日の間に気になる事も出来ていた。
「……」
今回の任務は輸送船の襲撃だ。敵組織が異国から輸入した武器を積んだ船を運搬しているとの情報を頼りに、黒蜥蜴を率いる僕と志賀さんの部隊で制圧戦をする事になった。
作戦は順調に終わった。船は海へと沈み、中に積まれていた荷物は船員と共に海の藻屑。そこまでは善かったのだ。
「言う通り命乞いしてきた人は捕縛してきたけど善かったかな?直哉」
『嗚呼、それで構わない。武者は気が利くな』
「へへっ、そうだろ?」
そう、数日前に入ったばかりの新入りが、志賀さんに生意気な口を聞いているのだ。
栗毛の少し跳ねた髪に翡翠の瞳の幼い顔つきの男。つい最近までは黒服を纏っていた癖に、今では志賀さんの真似なのか丈の短い白のパーカーを着ている。
目立つ白が二つ目の前にある光景は、至極不愉快だった。
「志賀さん」
声を掛けて近づけば、志賀さんは僕に気づいて此方を見て下さる。山吹色の瞳が僕を見ている間は、何時ものように穏やかな気持ちになれた。
「此方も殲滅し終えました。次の指示を」
『そうか、龍もよく頑張ってくれたな。小生はこのまま次の仕事に向かうが、龍も来るか?』
「…!宜しいのですか?」
『無論だ。御前は小生の愛らしい部下、連れて行っても構わないだろう?』
志賀さんが笑って下さる。信頼を含むその笑みを見るだけで、僕の胸は満たされる。
「直哉、それ俺も行っていいかい?」
……その幸福を斬り裂いたのは、忌むべき白だ。
『武者も行きたいのか?』
「直哉一人だと何かと危なっかしそうだしさ」
『おい、誰が危なっかしいって…』
「貴様は何だ?」
志賀さんと其奴の間に割り入り、黒布を向ける。鋭い牙を持つ黒獣を前に、其奴は少しばかり後退した。
「先刻から黙って聞いていれば…貴様は志賀さんの何だ?馴れ馴れしく話しかけるな、不愉快な男め」
『止めろ龍。武者は小生の昔からの馴染みだ。だから特別に許している』
「…!然しっ!」
『小生が善いと云っているのだ。異能を仕舞え、龍』
そう云われて頭を撫でられてしまえば、もう何も出来ない。
胸中に残る悔しさを歯軋りに変えながら、僕は目の前の男から黒布を退けた。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2023年5月20日 2時