🍎帰省の日 ページ46
アップルside
帰省の支度を終えて翌日。黒いロングコートを羽織って部屋を出ると、朝早くの寒い廊下に、エースが鼻を少し赤くして立っていた。
『…!アップル』
「エース、こんな時間に何故起きてるんだ。まだ早朝だぞ」
『アップル行っちゃうかな〜って思って』
手を握れば手袋越しでも冷えていることが分かる。全く…私の恋人は本当に困ったやつだ。
「お前が冷えてしまうだろう。部屋に戻った方がいい」
『いいよ。僕トランプだから寒さとか平気だし』
「お前は……、……はぁ〜……」
『何だよ』とじとりと睨む顔はジャックそっくりで、私は冷えて赤くなっている鼻をつんとつついてやった。
「私が戻るまでに体を壊すなよ。戻ってきてすぐ看病は御免被る」
『!そんなやわじゃないしっ』
むっとする彼の表情に、静かに微笑する。愛らしい子供のような彼にキスをすると、エースはまた口づけてそのまま抱きついてきた。
『……早く戻ってきてね』
「嗚呼、善処しよう」
優しく抱きしめるとやんわりと体温が染みて、同時に胸が熱くなる。少しの間とは言え、こうも離れ難くなるものなのか。…人間というものはつくづく不便で、面白い。
「帰ってきたら少し驚くだろうが、お前ならきっと上手くやってくれるだろう」
離れて頭を撫でてやると、エースはよく分かってないながらも『ん』なんて返事を返して目を細める。うっとりと撫でられるエースから手を離し、「行ってくる」と伝えて歩き出した。
『アップル』
「ん?」
数歩歩いて振り返ると、エースが小さく手を振って『行ってらっしゃい』と笑顔で言う。その笑顔にドキッとしながらも、私は手を振り返してまた歩き出す。
長い廊下のその先、自分の世界へと続く鏡へと手を伸ばして中へと入る。薄暗い道を歩いて行けば、その先は我が女王の住まう城の前だ。
「……早く終わればいいが」
女王様のお手を疑ったことは無い。私という最高傑作を生み出した素晴らしき御方だ。だがそんなお人であっても、私のような長く存在する林檎の保存には手を焼かれている。
林檎は本来実り、そしていつか朽ちるもの。トランプより腐るのが早い私がこうして生きているのも、我が女王手ずからの毒を定期的に取り替えているからだ。…エースを混乱させない為にも、早く馴染むように努力するとしよう。
門をくぐり、私は城の中へと進んで行く。嗚呼、暫くの別れだ。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2022年10月31日 1時