上塗りの記憶:kwmr ページ27
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暗く冷たい部屋、一人きり。
周りを見渡すけれど何も無い。
この部屋に見覚えは無く、カーテンの隙間から覗く空は月も見えない暗闇だった。
「目が覚めた?」
うっすらとドアが開き、彼の声と此方へ向かってくる音がする。
何故だか分からないけれどそれを助けとは思えず、恐怖で身体が震えていた。
「気分はどう?大分暗いから驚いたでしょう」
「はい…」
「そのうち目が慣れれば多少は見えるようになるから大丈夫だよ」
彼の口振りから察するに、どうやら灯りがつくことはなさそうだった。
そして此処が何処なのか、その答えも分からないであろうことも。
「生憎此処の場所は僕しか知らなくてね、」
「っ、…」
「僕が居なくなったら、君は一人ぼっちっていう訳。まぁ、それも君には丁度良いんじゃない?」
一人ぼっちが丁度良いなんて、誰がそう思えるだろうか。
「僕はそろそろ行くけれど、その腕じゃ君は出ていけそうにないね」
ジャラ、という音とともに彼に手を取られる。
その腕、と言われたそれには、鎖の付いた手錠が嵌められている。
「最期まで此処を楽しんでいってよ、僕からのプレゼントだから」
そう言って頭を撫でた彼は、薄っすら笑みを浮かべて立ち上がる。
「待って!行かないで、私、」
「大丈夫だよ、そのうち迎えが来るから」
「誰が…?」
「さぁ?僕は見た事が無いから分からないけど」
「あのっ、置いていかないで…!」
「それは無理なお願いだなぁ」
ひとつ乾いた笑いをした彼が背を向ける。
何処へ行くの、待って、置いていかないで、一人にしないで、
虚しく響いた声は彼に届く筈もなく、無情にも閉まる扉。
「ねぇ待って!置いていかないで、此処は何処!一人に、…」
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キタ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。まさしくミッシェルの「世界の終わり」を意識していましたので、分かっていただけて嬉しいです。拙い文ばかりですが、また更新していきたいと思いますのでよろしくお願いします。 (2019年10月29日 0時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
さち - はじめまして。「終焉のエピローグ」を読んで、初めてコメント致しましたm(_ _)m。ミェルガンエレファントの「世界の終わり」のような世界でquizknockとミッシェルが好きな私にはたまりません(*^-^*)。これからも楽しみにしています(^-^) (2019年10月28日 22時) (レス) id: 4daa7caae5 (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - やまうみ。さん» コメントありがとうございます。前作からということで長い間ご贔屓にしていただけて有難い限りです。例の件はこういうジャンルではままあることですので、仕方ないですね。なるべく更新し続けていけたらと思いますので、今後もよろしくお願いします。 (2019年10月14日 2時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - 初めまして、コメント失礼いたします。前作からずっと読ませていただいておりまして、どのお話も読みごたえがあり美しい文章にやられております。騒動があったなかで続けてくださる数少ない作者様の一人でいらっしゃるキタ様が憧れです、これからも応援してます! (2019年10月13日 19時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - 佐野様>>コメントありがとうございます。良く見るお名前にびっくりしていますが、前作からお読み頂けていたなんて光栄です…!纏まりのない話ばかりですが、色々捻り出して更新してみたいと思います。佐野様の作品も楽しみにしています。 (2019年10月6日 22時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キタ | 作成日時:2019年9月26日 19時