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彼に恋したのはいつのことだっただろう。
もう遠い昔のことではっきり思い出せないけれど、有限の恋であることだけは最初から分かっていた。
もちろん、彼に相手がいることも。
それでもこの恋心を打ち明け、彼も応えてくれたことが何より嬉しかった。
いつか必ず来る今日この日までは少しでも彼に寄り添っていたい、そう思っていたから。
「なぁ、A」
「なぁに?」
「このままどっか遠くまで逃げちゃおうか。誰も知らない、誰も追いかけて来られないような遠い所まで、」
そしたらずっと二人でいられるでしょ。
そんなこと、叶う訳ないのに。
彼にそう言われると本当に叶ってしまう気がする。
何もいらないから、彼と二人で生きていたい。
皆私たちのことなど忘れ去ってくれればいい。
何度も何度も願って止まなかった。
けれど、現実はそんな簡単にはいかない。
許嫁は確かに存在するし、パーティーも開かれた。
そう遠くないうちにここにいることも知られてしまうだろう。
それは世界中どこにいても同じことだった。
「……やっぱり無理だよ、」
「っ、A…」
「どこにいても見つかっちゃう」
「見つからないところ探そう」
「隠れてもいつかつかまるよ」
「そんなこと、」
段々と近づく追手の声が、見つかるのも時間の問題であると教えている。
タイムリミットまで、あと少し。
「私は拓司くんと一緒にいられて楽しかった」
「過去形にすんなって」
「だから、これからの人生も幸せでいてほしい」
「一緒に幸せに、」
「私は一緒にはいられない」
「そんなことねぇよ」
「ほら、彼女が待ってる」
先程よりも呼ぶ声が大きく聞こえた。
終わりが近付いている。
「拓司くん」
「好きだよ、これからも、ずっと」
この時間が終わればもう彼に会うことは無いだろう。
私はお姫様にはなれないし、彼は私ではない誰かの王子様となる。
所詮、御伽話は御伽話だ。
風が急速に夜を冷やす中、大きくなる声にギリギリまで背を向けてそっと口付ける。
どちらのものとも知れない水滴が唇を伝って、落ちていった。
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キタ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。まさしくミッシェルの「世界の終わり」を意識していましたので、分かっていただけて嬉しいです。拙い文ばかりですが、また更新していきたいと思いますのでよろしくお願いします。 (2019年10月29日 0時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
さち - はじめまして。「終焉のエピローグ」を読んで、初めてコメント致しましたm(_ _)m。ミェルガンエレファントの「世界の終わり」のような世界でquizknockとミッシェルが好きな私にはたまりません(*^-^*)。これからも楽しみにしています(^-^) (2019年10月28日 22時) (レス) id: 4daa7caae5 (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - やまうみ。さん» コメントありがとうございます。前作からということで長い間ご贔屓にしていただけて有難い限りです。例の件はこういうジャンルではままあることですので、仕方ないですね。なるべく更新し続けていけたらと思いますので、今後もよろしくお願いします。 (2019年10月14日 2時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。 - 初めまして、コメント失礼いたします。前作からずっと読ませていただいておりまして、どのお話も読みごたえがあり美しい文章にやられております。騒動があったなかで続けてくださる数少ない作者様の一人でいらっしゃるキタ様が憧れです、これからも応援してます! (2019年10月13日 19時) (レス) id: e8e6962fde (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - 佐野様>>コメントありがとうございます。良く見るお名前にびっくりしていますが、前作からお読み頂けていたなんて光栄です…!纏まりのない話ばかりですが、色々捻り出して更新してみたいと思います。佐野様の作品も楽しみにしています。 (2019年10月6日 22時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キタ | 作成日時:2019年9月26日 19時