茹だる熱/朱桜司 ページ4
最近流行りのスマホのゲームが楽しくて、現在進行形で熱中している。
どれくらい熱中しているかと言うと、人の近づく気配にも、背中から声がかけられているのにも、普段より気付くのが遅れるくらいには、だ。
「⋯⋯さん。⋯⋯Aさん!」
はっ、と気付いた時にはもう遅い。
画面にはコンテニューの文字が並んだ。
「す、すみません。私が呼びかけたばかりに」
「いや、私こそ気付かなくてごめん」
私を呼びかけていたのは司くんだった。
私に非があったにも関わらず、先に謝ってくれるあたり紳士的だな、と思う。
「つい熱中しちゃって」
スマホを司くんにも見えるように掲げる。
司くんは私の後ろから覗き込むようにして、興味深そうに画面を見た。
「それは今流行りのgameですね! 実は司も気になっていました⋯⋯!」
楽しそうに目を輝かせて話す彼は、先程までの紳士さとは変わって年相応だった。
大人びているとはいえ、彼の男子高校生らしい一面を知ってくすりと小さく笑みを零す。
ちらりと同じスマホを覗いている彼の顔を盗み見る。
顔を動かすとぶつかってしまうくらいの距離に整った顔があって、心臓の奥が揺れる。
息が、速まった心音が聞かれたらどうしよう。ぐるぐると巡らせた思考回路。ショートした熱が顔中に集まった気分だ。
時に無邪気は恐ろしい。他意は無くとも、こうして人の気持ちを揺さぶってくる。
「あ、あつくない!? ちょっと冷たい飲み物でも買ってくるね!」
気持ちが揺れに揺れて、脈絡のないことを口走ってその場を逃げる。
とはいえ、熱いのも嘘ではなかった。少し涼んだらこの心臓の揺れも元通りになるはずだ、と忙しなく足を動かし、自販機に向かった。
.
「残念、逃げられてしまいましたね」
残された彼はぽつり、言葉を落とす。
可愛らしいお顔をもっと見せてほしいものです、Aさん。
紳士で無邪気な顔を持つ彼。
彼は今、愛しい人を想う普通の男子高校生の顔をしていた。
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夢現(プロフ) - 夢林檎さん» 夢林檎さん、コメントありがとうございます。結構な話数があるのに読んでいただけて本当にありがたいです⋯⋯!夜逢列車はこの中でも少し特殊な話だと思っているので、そう言ってもらえて嬉しいです。この作品を見付けて読んでいただき、ありがとうございました! (2022年11月27日 23時) (レス) id: e5620f0a3d (このIDを非表示/違反報告)
夢林檎(プロフ) - こんなにも素晴らしい作品を暫く見逃していたのに後悔しかありません……とても面白くて一気見してしまいました!特に夜逢列車の回が1番考えさせられるところもあり好きでした!心を動かしてくれる作品をありがとうございました。 (2022年11月27日 8時) (レス) @page50 id: a4e828e6ef (このIDを非表示/違反報告)
夢現(プロフ) - Mashiro Lioさん» Mashiroさん、コメントありがとうございます。送ってくださるお言葉や感想にいつも励まされていました。私としても少し寂しいですが、今後筆を執った際にはまた楽しんでもらえたら幸いです。長い間見守って頂き本当にありがとうございました! (2022年6月27日 14時) (レス) id: e5620f0a3d (このIDを非表示/違反報告)
Mashiro Lio(プロフ) - 完結おめでとうございます。何度読み返しても飽きないお話ばかりなだけに寂しくはありますが、きっとこれからも思い出して読み返したくなる、とても素敵な作品をありがとうございます!お疲れ様でした。他作品も、そしてもし新作等出される際は、楽しみにしております! (2022年6月26日 16時) (レス) @page50 id: 3124529ae6 (このIDを非表示/違反報告)
夢現(プロフ) - 更科さん» 更科さん、はじめまして。コメントありがとうございます。貴重なご感想、大変嬉しく思います。更科さんの作品を楽しみにしている身としても光栄です。影ながら応援しております。不定期な更新ですが、今後もお楽しみ頂けますと幸いです! (2022年5月25日 14時) (レス) id: e5620f0a3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夢現 | 作成日時:2019年11月24日 0時