夜逢列車【4】 ページ17
無機質に、扉が閉まる。これは幻想だとでも言いたげに、列車は消えた。
勢いよく引き寄せたせいで、二人して雪崩込んでしまった。
「──ねぇ。凛月、わたしね」
彼女から零れる、空知らぬ雨。これ程綺麗な雨を、俺は知らない。
「本当は、生きたかったんだ」
.
「おい凛月、大丈夫か? あんま無理すんなよ〜?」
今朝も隣に居るま〜くん。それはいつもと変わらないが、寝起きの俺の様子がやや可笑しかった故に、妙に甘やかしてくれる。
「ま〜くん。俺ね、Aに会ったよ」
それを聞いた彼は目を見開く。久しぶりに聞いた、懐かしい少女の名前。
「夢で?」
「多分、そう」
夢にしては鮮烈すぎて、咄嗟に曖昧な返事しか出来なかった。まだ瞼の奥に、雨が焼き付いている。
──俺は、彼女の運命から守る騎士になれただろうか。
夢という幻だとしても、分かっていても考えてしまう。
彼女の手を掴んだ掌を見ては、密やかな溜息を吐いた。自分の無力さを痛感するのは、もう御免だ。
「あいつサプライズとか好きだからな、待ってればひょっこり帰ってくるかもしれないぞ〜。──⋯⋯って、あれって⋯⋯あっおい、凛月!?」
その姿を認識した途端、やる気の無かった足が一直線に動き出す。
「A⋯⋯!」
「わっ!? 凛月⋯⋯?」
首に手を回して、名前を呼んで、君の存在を確認する。確かな温もりがそこにはあって、変わらない陽だまりの香りがあって。今日は憎らしい程の快晴だったと言うのに、頬を雨が伝った。
「やっと、やっと逢えた⋯⋯っ」
「ごめんね、待たせて」
「ほんとだよ。話したいこと、沢山ある」
「凛月」
二人して、温かな雨を降らす。
「待っててくれて、ありがとう」
夜。未来ある朝へ導く、序章。
·
意識が朧な待人に逢いたい人だけが、微睡の中、瞼の裏でのみ乗車できる片道切符。
夜逢列車
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夢現(プロフ) - 夢林檎さん» 夢林檎さん、コメントありがとうございます。結構な話数があるのに読んでいただけて本当にありがたいです⋯⋯!夜逢列車はこの中でも少し特殊な話だと思っているので、そう言ってもらえて嬉しいです。この作品を見付けて読んでいただき、ありがとうございました! (2022年11月27日 23時) (レス) id: e5620f0a3d (このIDを非表示/違反報告)
夢林檎(プロフ) - こんなにも素晴らしい作品を暫く見逃していたのに後悔しかありません……とても面白くて一気見してしまいました!特に夜逢列車の回が1番考えさせられるところもあり好きでした!心を動かしてくれる作品をありがとうございました。 (2022年11月27日 8時) (レス) @page50 id: a4e828e6ef (このIDを非表示/違反報告)
夢現(プロフ) - Mashiro Lioさん» Mashiroさん、コメントありがとうございます。送ってくださるお言葉や感想にいつも励まされていました。私としても少し寂しいですが、今後筆を執った際にはまた楽しんでもらえたら幸いです。長い間見守って頂き本当にありがとうございました! (2022年6月27日 14時) (レス) id: e5620f0a3d (このIDを非表示/違反報告)
Mashiro Lio(プロフ) - 完結おめでとうございます。何度読み返しても飽きないお話ばかりなだけに寂しくはありますが、きっとこれからも思い出して読み返したくなる、とても素敵な作品をありがとうございます!お疲れ様でした。他作品も、そしてもし新作等出される際は、楽しみにしております! (2022年6月26日 16時) (レス) @page50 id: 3124529ae6 (このIDを非表示/違反報告)
夢現(プロフ) - 更科さん» 更科さん、はじめまして。コメントありがとうございます。貴重なご感想、大変嬉しく思います。更科さんの作品を楽しみにしている身としても光栄です。影ながら応援しております。不定期な更新ですが、今後もお楽しみ頂けますと幸いです! (2022年5月25日 14時) (レス) id: e5620f0a3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夢現 | 作成日時:2019年11月24日 0時