歌うたいの革命日記【派生作品】 (ページ4)

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馴染みのカラオケボックスで部屋を取り、丁度良い冷房の効いた室内でぐっと伸びをする。歩き通しで疲れたのだろうか、腰や肩がばきりと鳴った。

タブレットを操作し、迷い無くまとめて曲を入れていく。曲のレパートリーを増やす事は、そのまま詩音の個性を伸ばす事に繋がる。また、歌唱力を上げる事は人の耳に届き易くなる事に繋がる。そして、歌う事は詩音にとって呼吸とまではいかずとも、食事と等しい位には重要な生活の一部である。正しく一石三鳥のこの行為を、詩音は殊更好んでいた。

8曲程まとめて歌ってから、ドリンクバーでアイスコーヒーを取ってきて一休みする。体力はそれなりにあるとは言え、続けて歌い続けるのはやはり疲れるものだ。喉の調子はまだ良好な為、もうしばらくは歌うつもりだが。

『ロストワンの号哭』『メカクシコード』『劣等上等』『スーサイドパレヱド』など、詩音が歌う曲の幅はかなり広い。高音も難無く歌いこなし、かと言って低音を苦手とする訳でもない、所謂両声類というものだ。最近はボーカロイド曲に走りがちなのは詩音自身も自覚している。何せどっぷりのめり込んでしまったのだから仕方が無いだろう。

結局丸々5時間歌い続け、日が暮れ始めた頃合になってようやくカラオケボックスから出た。料金が時間制でなくて良かったと、こういう時心底思う。

朱色に染まり出したコンクリートと雑踏を眺めながら、詩音は鼻歌混じりに機嫌良く帰路に着く。

夜はまた、ヒーローを敵とし動く。自分はヒーローにもヴィランにも堕ちぬ革命軍であり、自分のバンドメンバーと声を奪った極悪人(ヒーロー)共に復讐を誓った鬼である。

運の良い事に自分の声は帰ってきたものの、かつての仲間が帰ってくる事は無い。それなのに、手が届かなかった命が無いかの様に振る舞うヒーローは、詩音にとっては何と言われても赦せない大罪人である。

思い出した憎悪に眉を顰め、詩音は帰路を急いだ。早く家に帰って、ピアノを弾こう。或いはギターでもベースでも、ドラムでも良い。何か楽器を奏でる事は、歌う事には及ばずともストレス発散には丁度良い。我が身を焼き尽くしそうな怨念は、それで雪ぐに限る。

雑踏の不躾な目に苛立ちを増しながらも、詩音は騒動を起こす事無く帰宅した。

そうしてまた、夜が来る。