唇に、さよなら。 (ページ7)

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０７：色気。ページ7

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平野くんを一晩泊めたのは
本当にただの善意で、下心なんてなかったけど

シャワーを浴び終えて
濡れた髪のままリビングに戻ってきた姿を見て
思わず、息を呑んでしまう。

｢髪、濡れたままだと風邪ひいちゃうよ？｣
｢ドライヤー借りてもいいですか？｣
｢もちろん。その前にしっかり拭いちゃお。｣

平野くんの肩に掛けられたバスタオルを手に取り
まだ水が滴ってる髪を、ワシャワシャと犬を撫でるように拭いてみたけど

｢あ、ごめん。｣

自然と近くなった距離に
困惑している平野くんの様子を見て、我に返る。

無意識だったけど、勝手に男性の髪を拭いちゃうなんて
彼女でもないのに何やってんだろ。

こんなの、旦那にもしたことないのに･･･。

｢Aちゃんが使ってるシャンプーめっちゃいい匂いする。｣
｢え？あー、お気に入りなんだ。
猫っ毛だから、髪絡まりやすいんだけど
今のに変えてから、結構マシになって。｣

なんてことない会話が続くけど
ふわっと、平野くんから私と同じシャンプーの匂いがした時は
妙にドキドキしちゃって、視線を逸らしてしまう。

｢これ、ドライヤーね。｣

洗面台まで戻って、ドライヤーを手渡す。

ありがとうございます。と、髪を乾かし始めた平野くんを置いてリビングに戻る。

もう、すっかり一人きりのリビングにも慣れたと思ってたけど
リビングからドライヤーの音が聞こえてくるだけで
この家にいるのは、私だけじゃないんだって嬉しくなったりもする。

平野くんは、早く自分の部屋に帰りたいだろうけど。

｢好きな時に寝ていいからね。
テレビも、つけっぱなしにしてても大丈夫だから。｣

髪を乾かし終えた平野くんに、コップに入れた水を渡す。

ゴクゴクと、動く喉仏が色っぽいなぁ、なんて
ほぼ初対面みたいな後輩相手に、何思ってんだろ。

平野くんの些細な仕草に、男を感じてしまう自分が
恋に飢えているようで嫌だな。

実際、人肌寂しいって思う瞬間はいくつもあるけど。