唇に、さよなら。 (ページ8)

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０８：照れ隠し。ページ8

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｢まだ眠たくないの？｣

お風呂から上がれば、ソファの上で三角座りでスマホを弄ってる平野くん。

ガタイのいい体が、こじんまりと収まっていて何だか可愛い。

｢ちょっと逆上せてない？｣
｢え？あー、私ね長風呂しちゃうんだ。
いつもの事だから平気だよ。｣

お風呂はゆっくり入りたい派だから
毎日シャワーも合わせて1時間半くらいかかっちゃう。

時間ない時は、20分とかで済ませれるけど
基本毎日家にいて、時間は持て余してる方だから。

｢逆上せて倒れてないかなって、ちょっと心配してたんです。
でも、さすがに覗きには行けないし。｣
｢ふふ、ありがとね。
あと、全然タメ口でいいからね？｣

平野くんの敬語が、ちょっと無理してる感があって面白い。

ありがとう、と眉を下げて笑う平野くんが
今、私と同じ部屋にいるなんて不思議だな。

｢平野くんは、明日も仕事？｣
｢あ、はい。じゃなくて、うん。16時からだから
それまでに鍵見つけないと。｣
｢だね。スペアの鍵もないの？｣
｢ビルのオーナーが持ってるけど
失くしたって言ったら怒られそうでヤダな。｣

苦く笑う平野くんは、怒られるのが苦手なんだろうな。

平野くん自身が、すごく優しい人なんだもん
きっと些細なことで心が傷ついちゃうんだと思う

｢ビール飲むけど、いる？｣
｢あ、俺ぜんぜん飲めなくて。｣
｢へ〜、そうなんだ。意外。｣
｢はは、Aちゃんも意外だよ。｣
｢なんで？｣

冷蔵庫のドアを開ける私の耳に、聞き慣れない言葉が飛んでくる。

｢だって、か弱い女の子って感じだから
ビール飲めるの、ギャップだと思うよ。｣
｢･･･か弱いって初めて言われたんだけど｣
｢ほんとに？今日も重そうな荷物持ってたの、
本当は気になってたんだよ。
腕折れちゃわないかなって。｣

その言葉を聞いて、笑い飛ばしたかったけど
至って真面目な顔して言うから
真に受けちゃって、ただただ恥ずかしくなるだけの私。

｢平野くん、私の事からかってない？｣
｢なんで？｣

キョトン顔で首を傾げる平野くんには、
何を言っても、私の照れ隠しは通用しないと思った。