狂気 ページ9
『それに私共、直接的に魔法や魔術を見せてくれとは言われていませんし! 』
「…ま、どの道。」
六原君は、何処か遠くを見るように目を見開いた。その目に映っているのは、私達でもその他の物でも無い。
虚ろな黒が、そこにはあった。
「俺に教えちゃったもんねぇ…？その時点で、口外を許可するも同然だよねぇ…! 」
六原君の表情が、ぐにゃりと歪む。
それはまるで、サイコパスという言葉が似合うような。私の知っている言葉で表すなら、近い所でこれは"狂気"だ。
畏縮した心臓が、次第に落ち着き緩んでいく。それでも尚、凍結したような空気を溶かしたのは、他でも無い。
「サイコパスだからって、どんな扱いしてもいい訳じゃなくね？」
他でも無い、私の友達だ。
「え、何々ー…？」
「あー…いや、サイコに逆切れされたら怖いし？」
…本当、馬鹿だけど優しい。この疑問系はきっと、六原君とサイコの双方を気遣った結果だ。
明らかに溶けて柔くなった空気に乗せて、いつも通りのサイコの声が響いた。
『とにかく! これ以降、私共の情報は口外しないように! 差別はいけないので、できる限り質問にはお答えします! 全体放送で!
しかし、必要以上広めないように! 本題は"裏切りゲーム"ですよ! 』
サイコは早口でそう言うと、プツリと放送機材を切った。
…いや、六原君の話によると、正しくはソシオが切ったのか。眼前には、随分放置されたミートパイとチョコレートケーキ。丁度同じことを思ったらしい四井さんが、「食べない？」とよく通る声で言う。それぞれ頷き、スプーンかフォークを持った頃、六原君が再び口を開いた。
「それにしても…三河サン、寝不足じゃない？俺が先行して考えたいから、わざわざ2時半に質問してたのに…」
独り言か問い掛けか、六原君はそれだけ言ってミートパイを一口に切り分けた。
私が以前したように、サイコとのやり取りは全体放送で行うことができる。なのに六原君と三河さんしかソシオを知らなかったのは、それが皆が寝ている時間に流れた全体放送だったからだ。
2時半、というのは午前2時半のことだろう。
「…平気。ずっと考えてたから。攻略法。」
三河さんは、普段と変わり無い様子で答えた。
…いや、午前2時半以降就寝は寝不足じゃないか。
「…無理しないでよ、俺達も協力するし。」
…"俺達"。弐筱君は、私と七瀬の意見を聴かずにそう言った。きっと私達のことを信用してくれているからだ。
「うん、睡眠も大切だし。」
「本当そうだぜ？俺2時間しか寝ずに学校行ったら1時間目に寝たもん。」
七瀬、それはただの馬鹿。
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