八久君 ページ38
「落ち着かない」…か。私は初日から寝てしまったけど。
…やはり、おかしいだろうか。私は宿泊先ではなかなか寝付けないタイプなのだ。
夕食に睡眠薬でも仕込まれていたんだろうか。
「そうなんだ。そういや、八久君の写真は?」
そう言えば、八久君は朝食を自室で食べていたから、写真の話をしていなかったんだっけ。朝食の時は、四井さんと六原君もいなかったはずだ。
「一野さんだよ。四井さんは自分のだって嘆いてた」
四井さんは、三河さんと同じケースだ。
八久君がいいと言うから、少し申し訳ない気もするが、一野さんの写真を拝見させてもらった。
『一野 一歩(ハジメノ イチホ)
3月3日生まれ O型
性格:弱気 乙女 流れ
強味:構成 同調
弱味:弱気 想い人』
この"想い人"というのは、弐筱君のことだろうか。
別にそれは自由だけど、私としては胸が痛い。私が弐筱君と付き合い続ける限り、一野さんの恋は叶わない。
…仕方ないよね、告白は相手からだし。
胸中で無駄な言い訳をしながら、私は一野さんの写真に視線を泳がせた。
「じゃあ、六原君は千山君の写真だね」
「千山の弱味は十中八九億田だろ! 」
滝十君が上げた声に、弐筱君は頷いた。
いつも仲の良い2人には、ずっと友達でいてほしい。
「強味は科学の知識だろうね。本当に博識だから、あいつ」
八久君もある程度仲が良いらしく、知ったような口振りで笑った。
八久君は常識的だし、色々と平均的でもある。もちろん誉め言葉だ。
「それにしても、伍島さんはすごかったわ」
「え?」
「ほら、昨日教室で窓割ろうとしたこと」
一瞬首を傾げたが、すぐに謎の焦りが込み上げてきた。結局作戦は失敗に終わったし、今だって嫌味を言われているのかもしれない。
羞恥心じみた緊張感が、背中をすうっと流れていった。
「そうかな、失敗したけど」
「だってあれさ、男だって怯えてたぜ?あの状況で動けるなんてすごいよ。少なくとも俺は、伍島さんを強いって思ってる」
一息に言ったものだから、妙に説得力があって、結局謙遜には至らなかった。
…私、強いのかな。だとしても、弐筱君や滝十君の方が強いに決まってる。
弐筱君は、辛い過去に向き合おうとしてる。滝十君は、自分の非を認められる。
皆強いし、とても格好良く見える。
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キリカゲ(プロフ) - なっちさん» コメントありがとうございます…!お褒めの言葉を賜り光栄です。この小説に需要があったということに感激しました…尊敬だなんて勿体無いくらいです。ほぼ自己満足状態ですが、少しずつ続編の更新もしていきますので良かったら宜しくお願いします! (2020年12月28日 18時) (レス) id: 696f81e61f (このIDを非表示/違反報告)
なっち - 続編に行っているようなので読まれないことを承知で書きますが、この小説、とても好きです。私はこういう複雑な人間感情を書いた小説を面白いと感じるのですが、こんなに複雑で面白い感情の小説をかける作者様、尊敬します。これからも頑張ってください! (2020年12月28日 16時) (レス) id: 8cb8225128 (このIDを非表示/違反報告)
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