あの空の果てまで〈完結〉

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結婚したら暗黙の了解のように退職する人が多い職場だったから、何の疑問も抱かずに仕事は辞めてしまっていた。

「仕事探そうかな」

また今月も生理がきてしまって、落ち込みそうになるのを、無理に元気よくそう言うと。

渉さんは私の髪を優しくなでながら、言った。

「ストレスたまるし。家にいれば？」

そう言われると、積極的に仕事を探す気持ちにはなれなかった。

不妊の原因の一つはストレス、って何かで読んだからだ。

渉さんは決して私を責めたりしないけど。

優しければ優しいほど、私は逃げ場がなくなっていくような気がしてた。



その日は朝から暑くて。

芝生に水をあげていたら、宅急便のトラックが止まったからホースの水をとめようと手元のスイッチを回したら。

反対に回してしまったみたいで、逆にすごい勢いの水がホースから飛び出した。

「わ！」

トラックから降りた玉森さんに水がかかってしまう。

「ご、ごめんなさい！」

玉森さんが笑いながら、手を伸ばしてホースの水を
止めてくれた。

柔らかい髪の毛に水滴がついて、きらきら光ってる。

「暑いからちょうどいいです」

「すぐタオル持ってきますね！暑いから玄関に入っててください」

玉森さんはうちの荷物を玄関の上がり口に置くと、あちー、って手でぱたぱたしてる。

「これ、タオルです。拭いてください」

玉森さんが言われるがままタオルで拭いてる。

冷蔵庫から冷たく冷えたレモネードをグラスに入れてお盆にのせて持って行った。

「すみません、これ。お詫びです」

「え！そんな、かえって悪いことしちゃったな」

「そんなことない。よかったら飲んでから行ってください」

玉森さんは、少しためらったあと。

じゃあ遠慮なく、って、レモネードをごくごく飲んだ。

「……旦那さん、ですか？」

靴箱の上に飾ってある写真を見て、聞かれた。

「そうです」

「優しそうな方ですね」

「…優しいです。とても」


レモネードが入っているグラスの氷が、からん、て音を立てた。


「……それなら、どうして」

「え？」


「それならどうして。いつもそんなに寂しそうなんですか？」

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