あの空の果てまで〈完結〉

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「ありがとう。お世辞でも嬉しい。
じゃあ、ここで」

「…待って」

「え？」

「ちょっと相談したいことあるんだけど。飲みに行かない？」


相談って。

どう考えてもユリのこと、だよね。

迷ってる私を、藤ヶ谷くんはちょっと強引に、駅前の居酒屋に連れて行った。


「…浮気、してる気がするんだよね。ユリ」


ピーチサワーを半分くらい飲んだら、目のまわりが少し赤くなってる藤ヶ谷くん。

別れるつもりないとか言って、ばれてるじゃん。

「…何でそう思うの？」

「急にスマホすごい気にしたり。ドタキャンされたり」

もう全部言っちゃう？

さっき見たことも全部。

そうしたら。

藤ヶ谷くんは。


はあって大きなため息をつく藤ヶ谷くん。

「何でだろうな、俺。長続きしないんだ」


「……浮気じゃない、と思うよ。
ユリ藤ヶ谷くんにベタ惚れだし。
そんなことしないよ」

私がそう言うと。

藤ヶ谷くんは、とろん、とした目を私に向けた。


「…そうかな」

「うん。大丈夫だよ」

「Aちゃんがそう言うなら、大丈夫かも」


急に元気になった藤ヶ谷くんと私は、それからたくさんいろんな話をして。

食べて、飲んで。

気づいたら、終電がなくなってた。


「カラオケ行こー、朝まで歌うぞー」

藤ヶ谷くんはだいぶ酔っ払ってたし。

私ももう何でもいいか、と思った。

どうせ今日が終わったら、もう二度と会わないんだ。


「よーし、歌おう！明日休みだし！」

「いいねー！」


そうしてカラオケで散々歌って、笑って、ちょっとだけ寝て。

始発が動き始めたから、カラオケを出て駅まで歩き始めた。

藤ヶ谷くんはだいぶお酒が抜けたみたいで、足取りもしっかりしてるし、目にも光が戻ってる。


「…Aちゃんは優しいな」

「え？」

「本当は浮気してるよね、ユリ」


もうその話題は終わったと思ってたから、思わず狼狽える。


「優しいから、嘘ついてくれたんだよね」


「…違うよ」

「違わない」


「違う。私はただ。藤ヶ谷くんが傷つく顔見たくなかったんだよ」


「……え？」

「親友のことじゃなくて。自分のことしか考えてないの」

本当は。

初めて藤ヶ谷くんを見た時から。

藤ヶ谷くんが欲しかった。


「あ、虹」


白み始めた薄いピンクの空に、虹がかかっている。


「朝の虹は、雨が降るんだっけ」


雨が降ったら。

虹はきっと一瞬で消えてしまう。



それでもいい。


一瞬でもいい。




私を見てよ。







『朝虹』…END…

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